負け犬も歩けば愛をつかむ。
「昔から玲華にとって恋愛はゲームみたいなもので、簡単に手に入る男はすぐ飽きて、どんどん難易度が高そうな相手に恋をするようになっていた。ま、今回のことで痛い目を見ただろうが」



専務はマウスを弄りながら鼻で笑う。

いつも通りと言えばいつも通りだけれど、彼が纏う空気にはほんの少し空虚感のようなものが漂っているように思える。



「彼女の手助けをしていたのは、僕もそのゲームに乗ってやっていただけだ。昔からの付き合いがあるという以外、特別な感情があるわけじゃない」



……嘘ばっかり。

そんな宙を彷徨うような寂しげな目をして言ったって、説得力ないのよ。なんだかイライラしてくる。



「……見損ないました」



ぼそりと呟いた私の一言に、専務のマウスを動かす手が止まった。



「九条さんにとって専務は簡単に手に入る相手だから、飽きられるのが怖くて逃げてるだけなんじゃないですか? そんなの、負け犬と一緒ですよ」

「……なに?」



目線だけを動かして私を見上げた専務の静かな威圧感にも臆さないくらい、今の私は何故か強気だ。



「自分の気持ちをないがしろにして、彼女の恋の手助けばかりしてるなんて、向き合う勇気がない臆病者じゃないですか!
本気で誰かを手に入れるには、絶対そんなふうに格好つけたままではいられないんですよ。惨めでも格好悪くても、真正面からぶつからなきゃ愛は掴めません!」

< 229 / 272 >

この作品をシェア

pagetop