負け犬も歩けば愛をつかむ。
「パーティーの請求書です。ギリギリになってしまい、申し訳ありませんでした」

「なんだ、間に合ったのか。つまらない」



つまらないって!

まったく、こっちの苦労も知らないで! ……って、ああなったのは自分のせいか。

若干後ろめたい気持ちもあるけれど、椎名さんに『俺の手を借りたとか、バカ正直に言うなよ』と忠告された通り、ここは何も言わないでおこう。

専務は請求書を眺めながら、表情を変えずに仕事とは関係ないことを口にする。



「さっきの話、聞いていたんだろう?」

「……はい」

「玲華の恋は終わったんだ、君達の邪魔をする必要もなくなった。もう僕の目は気にせず、ご勝手にどうぞ」



散々意地の悪いことをしておいて素っ気なく突き放すとは、本当に自己中な人だ。

彼の魔の手から解放されるというのは、私にとっては飛び跳ねたいくらい嬉しいことだけれど。

でも、今は二人のことが気になってそれどころではない。



「あの……そこまで九条さんのことを想っているなら、どうして告白したり、奪ったりしないんですか?」



専務の強引さなら、そんなの簡単だろうに。

そう思いながら尋ねると。



「……さっき見てわかったと思うが、あいつは恋愛に関してはかなりイタイ奴なんだ」



パソコンの画面を見たままの真顔の専務からはそんな言葉が返ってきて、思わず吹き出してしまいそうになった。

でも、意外と私の質問に取り合ってくれそうな様子に、黙って話の続きを待つ。

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