負け犬も歩けば愛をつかむ。
そんな私の葛藤なんて知るはずもない椎名さんは、「あぁ、したよ」と答えて、バッグから取り出した書類とUSBを持って私の隣にやってくる。



「本社の皆でね。俺が場所取り担当だったんだけど、シート敷いてちょっと離れたらその隙に、なんとおじいちゃんおばあちゃんの集団が座っててさ。仕方ないから別の場所取り直した」

「ぶっ」



一人せっせと場所を取り直す彼の切ない姿を想像すると、面白くもあり愛おしくも思えて、私は吹き出した。



「椎名さんって、一生懸命なのにちょっとツイてない所がありません?」

「よく言われる。『なんか惜しいよな』って。頑張ってるんだけどね、俺」



失礼を承知で言ってしまったけれど、椎名さんが至って普通にそう返したから、また笑いが込み上げる。

隣に立つ彼を見上げて、私は再び思ったことを率直に言った。



「椎名さんって、真面目で誠実で、人のために自分が動くのも惜しまないじゃないですか。そんな人がツイてないなんて、神様は不公平だなぁって思っちゃう」



こんなふうに言えてしまうのは、彼に気を許している証拠なのかもしれない。

改善点があればきっちり指摘してくれるけれど、まったく威張らないしパートさんに対しても低姿勢で、それが彼の自然体なのだ。

そんな、私達と同じ目線でいてくれる人だということをこの数週間で実感したから、彼と接する自分も同じように素でいられるんだろう。……でも。

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