負け犬も歩けば愛をつかむ。
「ありがとう。そんなふうに言ってくれるのは春井さんくらいだよ」



ふっと柔らかく細められた瞳で見つめられながらそう言われると、やっぱり少し恥ずかしい。

パソコンに目線を戻すと、「でもね」と優しい声が降ってくる。



「ついてないことばっかりでも、いつか必ず運は巡ってくるものだよ。だから毎日腐らずに、ひたむきに生きるしかないんだ」



特別落ち込んでいたわけでもないけれど、前向きな椎名さんの言葉には気分を上向きにさせられる。

微笑をこぼして軽く頬杖をつき、窓の向こうの青空を眺めつつ呟く。



「……私にもそのうち幸せが巡ってくるかな。最近たいしていいことないけど」

「もちろん。それに、小さい幸せなら探せばそこら中にあるもんだよ。
春井さんも、気付いてないだけで実はもう近くにあるかもしれない」



──実は、もう近くに……?

あるのかな、と頭の中で検索しようとすると、椎名さんがデスクの上に書類を置き、パソコンにUSBを差し込む。



「さて、そろそろ仕事するか」



そう言って、私が座るデスクチェアの背もたれの部分に軽く左手をかけ、右手で私の手元にあったマウスを動かし始める。

後ろから身体を半分包み込まれているような感覚に、ドキン!と大きく心臓が波打った。



「これが新しい発注ソフトね。まずここをクリックして……」



淡々と始める椎名さんだけど、私は彼に意識が集中しちゃってそれどころじゃない!

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