負け犬も歩けば愛をつかむ。
和洋折衷の美味しい創作料理を味わって、「こういうメニューならうちでも出せそうだね」なんて仕事の話も交えながら、普段は出来ない話で盛り上がる。

まだ私達のプライベートな事情を知らない椎名さんに、各々がどういう“問題”を抱えているのかを、いつの間にか園枝さんが説明し始めていた。



「真琴ちゃんはだめんずウォーカーでしょ~? 水野くんはホテルの厨房からしっぽ巻いて逃げてきちゃったし、千鶴ちゃんは独身アラサーで、私はバツイチ熟女。ちょっぴり残念な人達の集まりなのよ」

「私達、いわゆる“負け組”ってやつですよね」



園枝さんに乗っかり、自分で自分を負け組と言って情けなくなってしまう。

真琴ちゃんと水野くんは「うちらは負け組なんかじゃないよねー」と言って認めていないけれど。

そんな私達を楽しげに眺める椎名さんは、片手で頬杖をつき、柔らかな笑みをこぼす。



「俺も、世間からしたら負け組なんだろうな」



あっさりとそう言ってビールを飲む彼に視線が集まり、少し真顔に戻った水野くんがこう問い掛けた。



「マネは本当に会社のやり方に不満はないんすか? サブマネなのに出先も任されて、上の人なら放っておくようなパートさんの些細な頼み事も律儀に聞いて。それなのに昇進させてくれないなんて、普通は嫌になるでしょ?」



水野くんが言うことはもっともだと思った。

人一倍働いているのに、それに見合った肩書きももらえないなんて、不満はあって当然じゃないだろうか。

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