負け犬も歩けば愛をつかむ。

「あーもう何なの、あの言い方は!」



専務室からの帰り、エレベーターに乗り込むと、私は憤りを指先に込めてボタンをバシンと押した。

改めて専務の言い草を思い返すと、イライラは治まるどころか沸き上がるばかりだ。

今までの紳士っぷりは何だったの? 百年の恋が冷めたような気分よ。恋なんてしてないけど!



「椎名さんだってムカッとしたでしょう!?」

「ムカッとしたっていうより、腹が立ったよね」

「それ同じ意味です!」



私のツッコミにクスクスと笑う椎名さんは、まったく苛立っている様子はない。

引きずらないと言うか、切替が早いところはやっぱり大人だな……。



「こんな日はパーッとお酒でも飲みたい気分だわ」

「飲む? 付き合うよ」

「ホントですか!? じゃあぜひ……って、え?」



勢いで了承しそうになったけど、ちょっと待って。

チーン、とエレベーターが三階に着いた音がして扉が開いたものの、そのまま立ち尽くす。

そんな私を振り返った椎名さんは、ふっと笑みを浮かべる。



「あぁ、俺は酒飲まないけどね。俺がいても良ければ一緒に食事しに行こうか」

「……ほ、本当にいいんですか?」

「もちろん。したいことがあったら言ってって言っただろ」



うっそ、椎名さんと二人で行けるの!?

どどどうしよう、急展開で緊張する! けどラッキー!


さっきまでの怒りはどこへやら。

一瞬にしてお決まりのお花畑が脳内に広がった私は、その浮かれた気持ちを隠すことなく満面の笑顔になるのだった。




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