雪恋ふ花 -Snow Drop-

宿の前に着いて、確かにここに間違いないと、珠は安堵のため息をついた。
玄関の引き戸を開けると、春人が思いがけない一言を言った。

「ただいま〜」

「えっ?」

「俺も、この宿なの」

「ええっっ」

「ちなみに、ここ、俺の定宿」


珠は思わぬ偶然にクスクスと笑い出した。

「こんなことって、あるんですね」

「あるんだな」


乾燥室に板を置き、春人が戻ると、スキーブーツがなかなか脱げなくて、珠が真っ赤な顔をして格闘している。

「おまえ、ほんとドジだな」

春人が笑いながらスキーブーツをぐっとおさえてくれて、やっと足を抜くことができた。


フロントから、宿の人と親しげに会話を交わす春人の声が聞こえてくる。

「まだ、帰ってないらしいよ。おまえの連れ」

「そうですか……」

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