雪恋ふ花 -Snow Drop-

2週間後の金曜日、春人は早目に仕事を切り上げると、自宅へ帰って急いで出かける準備をした。
仕事中もなかなか集中できず、今日は効率がすこぶる悪かった。

スキーを教えるだけだ、それ以外に何の意味もないのだ。
と頭では理解していても、ともすると甘美な想いにとらわれそうになる。
もう長い間、感じたことがなかったような、あの懐かしい想いに。

スキーバスの出発は0時20分なので、待ち合わせは23時30分にした。
地下鉄の改札前に着くと、珠はすでに立っていた。
春人を見つけると、人なつっこい笑顔で手を振る。

ちっちゃい。
何度会っても、いつも初めはそう思う。
春人は175センチなので、身長差は35センチほど。
珠と話す時はいつもかなり腰をかがめないと声が聞こえなかった。

コンビニで飲み物や携帯食を買って、バス乗り場へ移動する。
週末とあって、カップルやら家族連れでにぎわっていた。
受付では案の定、親子と間違われて、二人で苦笑する。


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