雪恋ふ花 -Snow Drop-
しばらくして、麗子のだんなの車が店の近くに止まった。
挨拶もそこそこに、車に乗り込むと、珠の靴を脱がせた。
小さな真っ黒のエナメルのストラップシューズをそっと足元に置いた。
その時になって、春人は珠の家を知らないことに気がついた。
とりあえず駅の近くまで車を走らせる。
「珠ちゃんって、大学生よね?」
「ああ」
「だったら、学生証、あるんじゃない? ちょっと失礼して」
麗子が珠の鞄の中を探し始めた時、スマホが着信した。
「出ても大丈夫かな?」
「名前、出てるか?」
春人が慌てて聞く。
彼氏だったら、また話がややこしくなる。
「姫花って、出てる」
「ああ、それ彼女の友達の名前だ」
麗子が珠のスマホをとり、事情を説明する。
姫花から住所を聞き出すことができた。
珠が目を開けたので、「気分悪くないか?」と春人が聞く。
こくりと珠がうなずいた。
「水、飲めるか?」
麗子が買ってきたペットボトルを口に近づけると、珠はごくごく飲んだ。
「こぼれてる」
口の横から喉に伝う水を慌てて、春人がハンカチでぬぐう。