士農工商犬猫ドンバ

バイヤなナシハ

<寒い中、セーミに着いて6時20分。FENが流れる狭い楽屋。

バンマスのイズミは鼻歌まじりでターギ拭いて、ミミは穴だらけの
ソファに寝そべってプクイチ。 ヤノピのじゅんさん、段ボールで
作った鍵盤で指ならし。 サックスの村さんはリードを舐めてる。 
俺はスティック回しを何回も失敗してうるせえって怒鳴られて。

そんな時 落書きだらけのベニヤのドアがのそっと開いて
赤いジャンパーのジャーマネが入ってきた>

おお、なんだ早ええじゃんか。 もうパスポートかよ。

「ミミ ちょっと座らしてくれ」

何だよ、冴えねえ顔でよ。 テツマンかよ、へっへ。

ジャーマネは無言でドサっと座って、マルボロに火をつけた。
そんで、煙を両足の間に吐き出して、顔を上げて言った。

「上海よぅ・・・1カ月延びた」

なぁにー!この野郎。 ふざけんじゃねえぞ! 

おとといナシハしたばっかじゃねえか。もうみんなその気だぞ。

「まあ聞けよ。昨日家帰って向こうのダクションに電話したんだ。
上海へ高え電話代払ってさ。 そしたら今入ってるピンバンが
あと1カ月残るって話なんだ・・・」

じゃ俺等どうすんだよ。このハコ今月で上がりだぞ、冗談ポイだ。
1か月も遊べねえよ。

...ああ、てめえ、先月のネカ払えねえからって、
ガセでおいしいナシハだけもってきたんじゃねえのか。ええ!
始めっからねえんだろ! このやろう。

「そうじゃねえ。5月からはだいじょぶ、ちゃんとできる。
向こうのジャーマネにもテルホにも確認した」

ほんとか? じゃあピンバン落としゃあいいじゃん。
大体なんで今頃んなってゴネてんだ。おかしいじゃねえか。
ギャラ出てねえんじゃねえのか。だったらバイヤだぞ。
ゴクチューマフィアの仕切りじゃねえのかよ。
どうなんだマネ公、説明しろよ! 

さすがのイズミも声がでかい。

「4月だけなんとかしのげよ。トラでもなんでもやってさ。
なきゃドカタでもやって何とかしのいでくれ」

ばっかやろうふざけろ! 俺りゃもうナオンと喧嘩してよ、
部屋飛び出してきちゃったぞ。 きょうからイズミんとこ
泊めてもらうことんなってんだ。親居るし気つかうけどよ。

まあ、俺んとこは別に気にすんな。親父のアパートだしよ。

「こばちゃんのナオンはバーキャレだっけ?じゃしょうがねえな
ミミのはルートコか。 じゃうまいこと食わしてもらえんだろ」

へっまあな...ヒヒ

まあなじゃねえよ、なに言ってんだ。
みんなでよ、ドンバで1カ月トラねえのかよ。

「無理だな。ピンで探すしかねえ。 村さんは管だしトラ拾って
何とかなんだろ。 じゅんさんは横須賀でトラあるから紹介する。 
火木のタテワリだけどよ。 あとはこばちゃん、ビータ行けよ。
今のタイコがボーヤでバイヤだって言ってたから、追ん出す。
温泉入ってツーケ直せよ。 上海行ってイージはバイヤだぞ」

バカうるせえ、大きなお世話だ。

俺、週二のタテワリじゃネカももたねえ。どっかドンバさがすよ。
 
俺も1カ月仕事なきゃバイヤ。ルートコのイーボにされちゃうよ。

「じゃあ楽器売るかヤシチ入れたらよ」 

なんだとこの野郎! やっと買ったモノホンヘフナーだぞ。

村さん、セルマー売れるか?イズミよ、ギブソンをヤシチいれるか?
こばちゃんラディックのスネア売れるか?
俺等の商売道具だぞ、なめたこと言ってんじゃねえ! 
ぶっ飛ばすぞこのやろ。

「・・・冗談だよ 悪りぃ」 

元はと言えばマネ公、てめえのせいだ。 上海きっちりきめろよ。
俺等は金に困ったジャブチューバンドじゃねえぞ。
  
・・・これじゃあ解散じゃねえか。イズミどうすんだよ よお!

ま待てよ。この話ガセで言ってんなら、俺等もうてんぱってんぞ。

お前よ、今まで広島ビータ行った時マルク変えたよな。
中古だけどツンベーだった。 鬼怒川の時はバーキャレのチャンネー
からザキのチーママになったな。
そのあとは、柳ケ瀬のクラブでデーハに遊んで挙句の果てに、
チーバクでオケラだ。 去年は家増築してチャンカーに逃げられた。

そうだろっ!さんざん俺等からハネてしこたま儲けただろ!
まず先月の残りのギャラここできっちり払えよ。ナシハはそれからだ。

「・・・」

イズミよ、どうせこいつネカなんかねえよ。 誰かみてえにシャブに
手だしてダクション潰すよりましだ。 まずゴトシやろうぜ。 

「ユー達さあ、ツェージュー稼ぎてえんだろ? これはザキのヤーサン
が絡んでんだ。だから間違いねえ。 ピンバンもその人の仕込みだから
降ろせとは言えねえよ。 奴等絶対4月で降りる、間違いねえ。

「じゃあ教えてやるよ、実はな、バンマスがナオンに手ぇだしたんだ、
で、そいつがテルホのナーオーのレコだった。 
そんでボコボコにされて、結局1カ月ノーギャラでやるってことで、
おとしまえつけた。 そういうこった」

ふーん、ほんとかよ。 じゃあ5月からホント俺等行けんのかよ。

「ザキにはほかに行きたいドンバうじゃうじゃいるよ。
お前等でなくてもいいのよ。 でも俺がお前等に目ぇかけてやってん
じゃねえか。 イズミ、バンマスだろ。なんとかしろ。
マーちゃんもスタジオ安いって泣いてたぜ。奴引っ張ってきて...」

うっせー!!  ジャーマネが口出すスジじゃねえ!

「わかった。 じゃ6人揃えろよ。メンツ決まったら連絡しろ。 
パスポート作るからな。俺に電話すんときはジャーマネって言うなよ。
専務って言え専務な。 あと、午前中はだめだ、起きてねえ。
電話は夕方、じゃあ頼むな」 

なにが頼むなだよ。シーチョー野郎め。
どうせナオンとケーサで朝までジャンマーだろ、ったくよ。
 
さあステージだ。 行こうぜ時間だぞ。 

ったく、嫌な日だぜ。

  
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