風の放浪者
「気にしないで下さい。ちょっと、個人的なことですので」
「個人的なこと……ああ、嫌いな食べ物があるとか? それとも、食べてはいけない物とか?」
ヒントがない状況で見事に言い当ててしまうその鋭い勘に、エリザの顔が見る見る赤く染まっていく。
なんと彼女が気にしていたのは「嫌いな食べ物の有無」ということであった。
長い修道女生活。
無論、食べ物の好き嫌いは認められないが、どうしても苦手な食べ物が存在する。
それは、キュウリであった。
何でも「水分ばかり多くて味がない」というところが嫌いらしい。
「エリザって好き嫌いという物がなく、何でも美味しく食べるイメージがあったから意外だね」
「そのようなイメージを持たれても……」
「何でも食べないと、大きくなれない」
それは小さい子供をあやす母親のような台詞に似ていたが、エリザは別の意味として捉えてしまう。
反射的に自分の胸に両手を当て、何かを確かめるように触りはじめ盛大な溜息を付く。
「どうしたの?」
「ユーリッドさんには、関係ありません!」
これは、女性ならではの悩み。つまり、胸がなかなか成長しないというもの。
エリザは今年で15歳になり、身体も勿論ながら胸の大きさも気になる年頃。
流石にこれに付いては相談できず、彼は異性である前にこの世界の創造主。
創造主に胸の相談など、洒落どころでは済まされない。
しかし“もしも”という場合も存在する。
エリザは微かな望みに縋ろうとするが、理性がそれを阻む。
もし頼みごとをしてしまったら、女性としての何かを失ってしまうように感じたからだ。
それに他にも、理由がある。
それは、隣にいる相手を異性として見てしまうからだ。
いけない……そのように言い聞かせても、感情は思っている以上に正直だった。
修道女が、恋愛をすることはご法度。
一生を精霊に捧げ多くの信者の助けにならないといけないのだが、反動は大きい。
リゼルはこの世界を生み出した創造主であり、エリザは創造の対象物。
つまりリゼルによって生み出された、この世界の一部分にすぎない。
だからエリザの思いは、決して口にしてはいけない。
創造物が、創造主に特別な感情を抱く。
それらの思いは、尊敬・敬愛――そのような言葉で簡単に片付けられるものではなく「愛している」ただそれだけのこと。
しかしエリザは、自らの感情を懸命に押さえ込む。
彼を守る精霊の恐ろしさを、身を以って経験したのだから。