風の放浪者

 エリザは、竜が存在することは知っていた。

 そして、三匹だということも何となく聞いていた。

 しかし、

 その三匹が兄弟とはエリザは知らない。

 いや、ユーリッドの話しでは知っている者はごく一部。

 だから真実を探求している学者であれ、これについては初耳といっていい。

「創造主ですか?」

「どうしてそう聞く?」

「皆様が、そのように仰っていました」

 それに対し、ユーリッドは苦笑する。

 確かにこの世界を創り上げたのは竜であるが、大半を担ったのはリゼル。

 姉と兄は残念ながら高い力を有していなかったので、正確には創造主は一人。

 この辺りの曖昧さは、仕方がない。

 天地創造時代に、記録を残す者はいない。

 だが「竜が世界を創造した」という話が残っているだけで有難いと思えるが、人間はリゼルという存在を排除した。

 己が犯した罪を消す為に。

「結論は、いずれ出るだろうね。それに、彼等が許さないだろう。あのこともあるから……」

 精霊達は、リゼルを守る為に動くだろう。

 自らの創造主であり、母親である存在を冒涜したことは許されない。

 千年前の悲劇が再来する可能性が高い。

 そう、血みどろの世界が広がる。

「論争の原因は、このようなことがあったからですか。その……人間がリゼル様を襲った……」

「彼等にとって、あの出来事は何としてでも隠し通さないといけない。だから、異端審問官を使う」

 いまだに続いている、曖昧とも言える論争。

 竜は太陽と月に化身した二匹であり、三匹ではない。主となる部分を知れば、それが愚かなやり取りだと気付くだろう。

 しかし、主の部分を定義として位置づけない。

 もし認めてしまったら、精霊信仰の根幹に関わるからだ。

 人がどのように言おうとも、間違いなく竜は三匹存在している。

 空に太陽と月が輝き、エリザの側にリゼルという竜がいるからだ。

 もしリゼルを目の前にしたら、彼等はどのような反応を見せるだろう。

 その反応の仕方によって、人間達の運命が大きく揺らいでしまう。

「あっ!」

 何を思ったのか、エリザが驚きの声を上げる。

 その声にユーリッドは不思議そうな視線を向けると「何?」と、質問を返す。

 するとエリザは必死に頭を振り懸命に否定をはじめるが、その必死さが逆に違和感を生み出し、何か重要なことを隠しているのではないかとユーリッドは見抜く。
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