風の放浪者

「残念ながら、付き合っている暇はないの」

「次は、いつ会えるのでしょうか」

「それは、ぼうや次第よ」

 クスっと笑みを漏らすと、着物の裾を翻す。

 刹那、連続して鈍い音がフリムカーシとエリックの耳に届く。

 相手が変わり者ということで、容赦という言葉は不必要。

 結果、鈍い音が混じる。

「御免なさい」

 エリックが、前のめりで倒れた。

 それは、フリムカーシの三本の尾によって殴られたのだ。

 殴った衝撃で記憶が吹っ飛ぶことを期待して殴っているので、頭蓋骨が折れようと関係ない。

「このような感じでよろしいでしょうか? マスター」

 何も存在していない空間に向かって、フリムカーシが囁く。

 すると視線が向けられた空間が歪み、銀色の髪をした少年が姿を現す。

 その人物は、リゼルの姿をしたユーリッドだった。

「彼は、嫌いではない。ただ、性格に問題がある。いや、性格の他に音痴の歌も問題か……」

「はい。そのようで……」

「後は、彼女達に任せよう。必要以上の干渉は、理を崩す。それに、付き合ってもいられない」

 エリザが今後どのように動くかによって、大きく変わっていくだろう。

 しかし、心配はなかった。

 彼女は思った以上に強い一面を持っており、権力に魅力を感じる女性ではない。

 フリムカーシもそのことを認めているのか、微かに微笑むとユーリッドに向かい深々と頭を下げた。

「信じる。彼女を――」

「御意」

 顔を上げると同時に、自らの主の言葉に同調する。

 そして視線の先に見た表情は満面の笑みは、数百年ぶりに見た汚れないき笑顔。

 それはまるで、我が子をいとおしく思う母親のようであった。

「それは?」

「祖父が残した手記。信頼という言葉は使いたくはないが、今のところエリックに頼るしかない」

「……そうですね」

 懐から一冊の手記を取り出すと、エリックの手に握らせる。

 これから先、真実を明かしていくのは人間の役割。

 不必要な干渉をしないと宣言した手前、いつまでもこれを持っているわけにはいかなかった。

 それにエリックはこのように見えて頭がいいので、渡しても問題はない。

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