風の放浪者
「わかりやすい言葉、有難うございます」
「あれ、伝わった? 流石、ユー君」
「それは、お褒めの言葉として取っておきましょう。それに、気安くユー君と呼ばないで欲しいです」
「相変わらず痛い言葉だけど、君らしくて実にいいね。ところで、今日は例の方はいないのかね?」
エリックが言う“例の方”というのは、秋を司る精霊フリムカーシ。
彼女に好意を抱いているのか、深い仲になりたいという。
しかし、彼は気付いていない。フリムカーシは、エリックを嫌っている。
「彼女は、いませんよ」
「この季節は、彼女の管轄ではないのかな?」
「貴方に会いに行くと言ったら、彼女は嫌悪感を抱いていました。嫌われているようですよ」
「精霊には、私の魅力は伝わらないか。次に会ったら、愛の言葉を囁こうと思っていたのに」
自画自賛のナルシスト発言を器用に横に流した後、ユーリッドは立ち入り禁止とされている場所に足を踏み入れていく。
そのつれない態度にエリックはショックを受けしゃがみ込みへこんでしまうが、復活は想像以上に早い。
その証拠に、話の本題を表す言葉を発する。
「放火によって、消失したらしいよ」
何気ない言葉に、ユーリッドはエリックの顔を凝視する。
情報収集能力の高さに反応したのではなく、放火という単語が気になったのだ。
事件と無縁に思える街での放火事件というのは、怪しすぎる。
「犯人は、見付かってはいない」
「そうでしょうね。はじめから、見付ける気はなかったのですから。もしその気なら、もう少し……」
「……そうだね。私も、同意見だよ。そして、此処は多くの学者達が暮らしていた場所らしい」
「そうでしたか」
「驚かないんだ」
「以前この街に、祖父が暮らしていました」
「なるほど」
それ以上の会話は不要だった。
少しの情報から、エリックは正しい結論を導き出すことができたからだ。ユーリッドの祖父は、この場所で仲間達と暮らし日々研究を行っていた。
だが、全ての真実は灰の中に消えてしまい、祖父の仲間は全て聖書者の手によって殺害されてしまった。