風の放浪者
片膝を付き、煤で汚れてしまっている床に掌を置く。
此処は祖父の思い出の場所であるが、思い出に浸る暇は無い。
こうしなってしまった原因の主軸を明らかにし、犯人を見付けなければいけない。
いや、最初から犯人はわかっている。
そして、どうしてこのような結末を迎えてしまったことも。
だが簡単に手出しはできない相手であり、下手に行動すれば逆に捕まってしまう。
「君の祖父は、どの部分を――」
「ええ、神話の真実……物事の切欠の部分です。貴方とは、多少時間軸が違うようですがね」
「私は、その切欠の後を調べている。しかし、この神話にも改竄が多い。本当に、困っている」
「主軸が狂いますと、その後も狂ってしまいます。嘘をつけば、また嘘をつかなくてはいけない。悪循環の結果が、今の神話を作り出したのだと思います。ですから、訂正は難しいです」
そこまで言うとユーリッドは立ち上がり、懐から祖父が残した手記を取り出す。
躊躇うことなくエリックにそれを手渡すと、中を見るように進めた。
これを手渡された時「他人には見せるな」と注意を受けていたが、エリックは違う。
信頼という言葉は似合わないが、一種の同業者。見せることに、抵抗はない。寧ろ、エリックの意見を聞きたいと思っていた。
「原本の方は?」
「崩れた……と、言っておきましょう。何せ、千年前の物です。見つかった当初から、かなり危険だったようです」
「なるほど。しかし、奴等の手に渡らなかっただけ幸いだね。渡っていたら、処分されている」
「一字一句、間違いなく写しました」
「なるほど」
「彼等は、この存在を知りません」
「知らない方がいいよ」
「でしょうね」
祖父から手渡された手記は、写本であった。風化が激しい原本をそのまま残しておけないと、このような行為を行ったという。
それも、古代語のままで。
だから、知識なき者は読むことができない。
真実を探求する一部の者にしか、読まれてはいけない。
その内容に気付いてしまえば、愚かな者達はこの本を消し去ろうとする。
そのようなことは絶対にあってはならないことで、真実を隠すことはあの方への冒涜に繋がる。
そう、この手記には真実が書き記されているからだ。