風の放浪者
彼なら、きっと大丈夫。
ユーリッドには、確信があった。
それに、何かがあればその場で歌えばいい。
何よりあの歌を聞いたものは皆、失神してしまう。
最強最悪の武器を持つエリックは、多少のことでは捕まらない。問題は自分自身であり、修道院にはあの異端審問官がいる。
それでも、行くしかない。
エリザをあのままの状態では、あまりにも不憫すぎる。
別に同情心があるわけではないが、要は利用できる価値を見出したからだ。
そして、まだ間に合う。
◇◆◇◆◇◆
修道院に到着したユーリッドはエリザの姿を捜すが、それらしき姿は何処にもない。
近くを歩いていた修道士に彼女の行方を尋ねると、多くの修道女と一緒に街に買い物に行ったと教えてくれた。
それだと個人的に迎えに行くことはできないので、ここは修道院で待っている方が得策といえよう。
どう時間を潰そうかと悩んでいると、修道士が温泉に入ることを進めてくる。
温泉が名物であるベルクレリア。
「暇な時間があれば温泉に入れ」というくらい、自慢の対象らしい。
その提案に従い、ユーリッドは温泉に入ることにした。
一般的な湯の温度より高めだが、芯から疲れを癒してくれる。
湯に浸かりながらの暫しの時間、これからのことを考えはじめた。
ユーリッドはエリックに伝えることはしなかったが、遺体の大体の位置は見当がついていた。
過去の文献によると、異端者として捕まった者達は一箇所に集められたという。
其処は、この街に深く関係している場所。
そして、辛く悲しい感情が渦巻いている慟哭が混じり合う。
ふと、肺に収まる空気が冷たく感じた。ユーリッドは目を細めると、それらしき相手を捜す。
相変わらず、自分から話をはじめようとしない。
そのことに苦笑すると、ユーリッドから切り出した。
『ご迷惑でしたか?』
「いや、そのようなことはない。此処の温泉は、気持ちがいい。だから、浸かっているだけだ。で、場所は?」
『主が察した通りの場所にありました』
「……そうか」
伝えられた内容に、ユーリッドの唇が微かに緩む。
予想が当たったことに対して嬉しいという表現ではなく、それは人間の業に対してのものだった。
湯から両腕を出すと、濡れた髪を絞る。
指先から零れ落ちる青い髪。それはどこか「青」という色がぼやけているようにも見えた。