風の放浪者
異端審問官が纏う修道服は、血を浴びて染まったと言われている。
古来より、彼等は非道な行為を行い続けてきた。
中には言葉で表すにはおぞましすぎる行為も、平気で行うこともある。
対象者は多岐に渡り、女子供は関係なし。
老人でさえ構わず、異端と判断すればその命を奪う。全ては正しい教えの為というが、ユーリッドは鼻で笑う。
どちらが異端者だと――
「祖父の話では、異端審問官が現れたようです」
「じゃあこの火事も彼等の仕業か」
「此処には、彼等にとって邪魔な過去が書かれた本が沢山ありました。それを排除する為に、彼等が燃やした」
「なるほど……って、なら遺体は?」
「ないでしょうね」
その時、二人の気配を察したのか異端審問官が此方に視線を向ける。
予想外の行動に二人は息を殺し、相手の出方を待つ。
だが暫く視線を向けていたが気の所為だと判断したのか、彼等はその場から立ち去った。
「二人での行動は、危険でしょうね」
「別々ということかな?」
「時々、連絡を取り合うぐらいがいいでしょう。異端審問官の動きには、注意をした方がいいです。下手に動けば捕まります」
「ユー君は、どうするんだ?」
「仕事はしますよ。それに、彼女のことが心配です」
意味有りげな言葉に、エリックはニヤっと顔を歪めた。
真面目な印象が強いユーリッドの口から、女性のことが出るとは……から買うネタとしては最高だが、その人物が「修道女」だということを聞かされ、急に興味が削がれてしまう。
そして、不満そうな表情を作った。
「彼女は、純粋すぎる。故に、いい様に利用される前に何とかしないと……ただ、それだけです」
「優しいんだ」
「ただ、見ていられないだけです。それに、僕は優しい人間ではないです。特に、貴方には」
「うわ! 厳しい」
「真面目に、受け取らなくていいですよ」
そう言うと立ち上がり、異端審問官が立ち去った方向を見る。
どうやら、彼等は完全に姿を消したらしい。
続いて立ち上がったエリックは大きく伸びをすると、何かあったら宿に来るように告げた。
それが暫しの別れの挨拶となり、エリックは軽やかな足取りで草を掻き分け進むと街の中へ消えていく。