風の放浪者
『まさか、男湯に』
「天然も、ここまでくるとたいしたものだよ」
『男ではないのでしょうか?』
「いや、それは無いと思う……うん、そう思いたい。男であったら、色々とマズイからね」
彼女の正体は、実は男であった。
それが本当とは思いたくはないが、彼女は平然と男湯に入ってきた。強ち男の可能性も高い。
しかし性別を偽って修道院で暮らすのは不可能なので、彼女は正真正銘の女だ。
ユーリッドはエリザがいないことを確認しながら脱衣所へ向かうと急いで着替え、タオルで髪を拭きつつ外へ出る。
当のエリザは出入り口の側で座り込み、身体を小さくしていた。
「どうしたの?」
「ご、御免なさい」
「いいよ。仕方なかったことだし」
耳まで赤く染めながら、自分が行っていたことを恥じている。
どうやら「羞恥心」という感覚は持っているらしく、そのことに対しホッとしたユーリッドはエリザの肩に手を乗せた。
その瞬間、身体を過敏に震わせ拒絶反応を起こす。
突然の反応にユーリッドは思わず手を弾くと、理由を尋ねる。
彼の言葉にエリザはゆっくりと顔を上げると、目元に溜まる涙を拭い小声で囁く。
「御免なさい」
「何回も謝らなくていいから」
「わ、私は修道女です。それなのに、男湯に……け、決して疚しい感情があったわけではないですが……」
「うん。ちょっと問題かも」
「ああ、やっぱり……」
再び、彼女は項垂れてしまう。
女心の難しさに、ユーリッドは顔を歪めつつ次の言葉を探す。しかし、なかなか良い言葉がなかなか思い浮かばない。
どう言葉を返していいのかわからないユーリッドはレスタに回答を求めていくが、レスタもこのようなことを苦手としていた。
『我は無理です』
相手からの回答は、情けないものであった。
そもそも、精霊に人間の女心を理解する能力など持ち合わせていない。
フリムカーシは外見上女性であっても、中身は人間と大きく異なる。
つまりフリムカーシに同じことを聞いた場合でも、同じ答えが返って来るといっていい。
一体、どうすればいいか――暫く考えた後、ユーリッドはエリザの身を守ることを選択する。