風の放浪者

「内緒にしておくよ」

「本当ですか?」

「本当だよ」

「有難うございます」

 上げられた顔には、素敵な笑顔が戻っていた。

 やはりエリザは笑顔が似合うと思うも、それ以外の感情が生まれることはない。

 そう、誰かを好きになるという感情をユーリッドは持ち合わせていない。

 彼の言葉にいつもの元気を取り戻したエリザは、立ち上がると同時に自身を捜していた理由を問う。

「その……ご用件とは、どのようなことでしょうか? お待たせしてしまって、すみません」

「いや、それは構わないよ。仕事があるし。で、街で異端審問官を見掛けたけど、何があったのかな」

 ユーリッドは、態と本来の意図から外れた質問をする。

 はじめから例のことを聞いても構わなかったが、いきなりその質問してしまったら怪しまれてしまう。

 何事も順番とその時の雰囲気が大きく関係し、今はその時ではなかった。

 その為、エリザに気付かれずに済んだ。

「何でも、異端者が見つかったようです」

「見つかった?」

「そう、聞いております。ですので、その道の専門の方々が捕まえようとしているようです」

 ということは、その異端者はまだ捕まってはいないといっていい。

 しかし、相手は異端審問官。

 彼等の仕事ぶりを残された資料から探ると、その人物が捕まるのは時間の問題。

 そして捕まったその後の結末は、過去の出来事が教えてくれる。

 決していい結果を望めはしない。

「怖いですね。異端者なんて」

「どうしてそう思う?」

「彼等は、正しい信仰を覆す行為を行っている人です。皆の意見に逆らうということは、やはりいけないことだと思います。皆様が、正しいと思っていることなのですから。勿論、私も……」

 つまり大勢の意見が正しく、少数の意見が間違っているといっていい。

 だが、全てがそれに当て嵌まることはない。

 場合によっては異なり、今までの正しい考えが覆ることさえある。

 ユーリッドやエリックが探す真実がそれに該当するのだが、言葉に表すことはしない。

 出した瞬間「異端者」としての烙印を押されてしまい、別の場所へと連れて行かれてしまうからだ。

 そこまで、正しい教えを守る理由とは――ユーリッドは、思わず口許が緩みだす。
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