天使のアリア––翼の記憶––
学校に着いて、下駄箱に靴をしまう。

ほぼ毎日走っているせいか、日に日に足が速くなっている実感がある。当初の頃と比べたら大分息も上がらなくなってきた。それを成長というのか馬鹿というかは分からないが、とりあえず私は進化していると思う。


私の学校の下駄箱は扉が付いていないタイプなので、どの下駄箱に靴が入っているのか一目瞭然ですぐに分かる。

朝礼開始時間の直前ということもあってか、殆どの下駄箱には靴が入っていた。というか、靴が入っていない下駄箱を探すのが大変なくらいだ。

それもそうかと少し笑って、クラスに向かおうとしたその時、ある下駄箱が目に入った。うちのクラスのものだった。

砂が全く入っていない、女子力高めなその下駄箱に入っている、可愛らしい焦げ茶色のローファー。ヒールが高めのタイプだ。

私はこの靴を、その持ち主を、良く知っていた。

この靴の持ち主の部活がない日は必ず一緒に下校しているから。


靴を見ていると、ずんと気持ちが重くなった。


私はどんな顔をして会えばいいの?

私が話しかけたらいつもの笑顔で答えてくれるかな?

お弁当、一緒に食べてくれるかな?


そんなことを考えるだけで泣きそうにまった。


私はあなたに嫌われても、それでも、私はあなたを嫌いになることはできないんだよ。

何があっても、できないよ。


「…乙葉…」


あなたは私の大好きな親友であり大事な幼馴染みだから。

絶対嫌いになんてなれないよ。

だって私は乙葉のことが好きなの。

友達や幼馴染みなんて枠を飛び越えて、最早家族のように感じているの。

あの優しさも、あの笑顔も、あの可愛さも全て、私の憧れで、失いたくない。

離れていかないで。

そばにいて。

そんなこと思ったって、今の私には決して言葉にできやしないけど、それでも願わずにはいられない。

もし離れていったら、どうしよう。

もう二度とその優しさに触れられないことになったら、どうしよう。

サラサラと大切なものが手からこぼれ落ちるような孤独感の中、涙がこぼれそうになった。

泣きそうになっている、その事実にハッと我に返った私は急いで時計を見た。

時計の針の指すその先を見て、私は走り出す。


あと2分で朝礼が始まってしまう。

学校に来ていると言うのに遅刻になってしまうのは勿体ない。


走って走って、階段も一つ飛ばしで駆け上がる。

廊下を走るなという先生の怒り声も聞こえた気がしたが、確かにそれを順守すべきなのだが、今はそんな注意を聞いている場合ではない。

今は遅刻するか否かの瀬戸際なのだ。
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