天使のアリア––翼の記憶––
授業が終わると、乙葉が話しかけてきた。

「月子、セーフだったねー」

よしよし、と私の頭を撫でる乙葉。

既にちびっ子扱いだ。

「お前、本当に阿呆だな! あの先生の授業で寝るなんて!…ぶっ!」

「笑わないでよバカウサギ!」

爆笑しているのは言うまでもなくウサギの阿呆だ。ウサギは私よりも阿呆なので、ウサギから阿呆とは言われたくないのだが、私もあの先生の授業で寝てしまうなど阿呆以外の何者でもないと自覚しているので何も言い返せない。悔しい。

「だって、おま…ぶっ!」

「だから笑わないでってば!」

恥ずかしさのあまり顔が赤くなるのが分かった。

ここでの話だが、私の寝不足はこの二人の幼馴染のせいなのである。

昨日の夜寝る前に、この二人とこれからどう接していけばいいのかかなり悩んだ。

だって、私のトップシークレットが知られていて、おまけに乙葉とウサギは銃も剣も強いみたいだし、何だかよく分からない危なそうなテロ組織には狙われるしで、2人に対する接し方を見失った。

しかし、頭の悪い私には今まで通りに接する以外の接し方が見つからず、結局今まで通りに接することを決めたのは明け方近くだった。

朝礼前もいつも通りに話していた。今までと何の変わりもない。

もう、どうやって接したらいいのかなどと考えることすら面倒くさくなったのだ。いくら考えても、頭脳数値の決して高くはないこの頭からは何もでてこないと改めて気づいた。


「次の時間も寝てたら爆笑モンだな…ふはっ!」

「もう既に笑ってるじゃないウサギコノヤロー!」

失礼も大概にしてほしい。


「いい子いい子ー」

ふわふわな笑顔で私の頭を撫でる乙葉に溜息しかでてこない。既に犬扱いだ。

もう何なの、この自由な幼馴染たち…

もう言葉を発することすら疲れてしまった。


「そう言えば、どうして先生の機嫌が良かったの?」

あの先生が機嫌がいい日が来るなんて…

「それも聞いていなかったのー? 先生婚約したんだってー」

「えぇぇぇええ!?」

叫んでしまった。

だって、だって、あの鬼とまで呼ばれたあの先生に婚約者ができるなんて…

でもまぁ、先生の機嫌が良かったから、いいか。


「はーい、席に着けー」

担任の声がして、終礼が始まった。
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