その蜜は海のように
「リィア様!ご出発なさるのですか!?」

そう言って部屋に侍女のアーヤが飛び込んできた。

「ええ。三ヶ月後には。」

「私を連れていって下さいませ!」

言うと思った。

アーヤとは、一番歳が近く気の合う友達のような関係だった。

それに、一番長くリィアのそば居た。

リィアもアーヤを連れて行きたいと思っていた。

遊びに行く訳ではないが、話相手が居ないことはわかっていた。

「お母様に聞いてくるわ。」

私はそう言ってアーヤに微笑んだ。



「ええ、アーヤには侍女頭として行ってもらう予定よ。」

と、エルリィナは言った。

「ありがとうございます!お母様。」

「貴女にもお話し相手が居ないと退屈でしょうしね。」

エルリィナはゆったりと微笑んだ。

それを見ると、リィアはこの笑顔と別れるのが寂しくなった。

「後、三ヶ月でお母様ともお別れですわ。」

はらりと涙が落ちた。

やはり家を出ていかなくてよかった。

と言う思いが溢れた。

「あらあら、泣かないで。貴女は領主なのよ。」

そう言うエルリィナの瞳にも涙が溜まっている。

「ほら、前を向いて。今の貴女はとても綺麗よ。泣いたら折角の美人が台無しよ。」

三ヶ月だけなのに。


こうも、今生の別れみたいな雰囲気は何故だろうか。



空は次第に曇り始めた。

リィアは、アーヤの待つ部屋へもどった。

早速アーヤに報告すると、顎が外れるのではないかと思うほど大口をあけ驚いていた。


まだ、十代のアーヤにとって侍女頭は大出世だ。

「リィア様!私のような若者が侍女頭など務まるでしょうか?」

アーヤは嬉しさと遠慮の入り交じった表情で、いつもリィアを励ます彼女にしては珍しく緊張しているようだ。

「大丈夫よ。私だって視察団なんてどうかと思ってるわよ。」

しかし、緊張していては駄目だ。




「それに、これは新しい旅への出発点に過ぎないと思わない?」



「最終地点までご一緒しますわ。」



二人は顔を見合わせ微笑み合った。





< 18 / 27 >

この作品をシェア

pagetop