小咄
「置いて行くなんて~酷いじゃない~~」

 暗いこともあり、葉っぱまみれで前屈みのゆいは、何をしていたのか髪もぼさぼさでそれが顔を覆い、まさしくおばけのようだ。
 ゆいだとわかっても恐ろしい。
 そのゆいに吹っ飛ばされた深成は、藪に突っ込みそうになったところを真砂にキャッチされた。

「かっかちょっ! かちょーっ! おばけーー!!」

「落ち着け。そんなもん、いるわけないだろ」

 泣き喚きながら、ささーっと真砂の背後に回り、そのまま背中に登る(置いて行かれないためか)深成に手を焼きながら、真砂が驚くことなく言う。

「ていうか、ゆいも落ち着きな。何やってんだよ」

 真砂と一緒に走って来た千代が、清五郎の足元でへたり込んでいる捨吉に覆い被さるゆいに言う。
 ゆいはひとしきり捨吉(と深成)を怖がらせた後、ぱっと身体を起こして、拗ねたように乱れた髪を直した。

「折角の肝試しだもの、面白くしようと思っただけなのに、捨吉くんてば本気で怖がって逃げちゃうんだもん。さすがにあたしも、一人にされたら怖いし」

「何したっていうんだよ。道からも外れてさ」

 千代の突っ込みに、ぎく、とゆいの身体が強張った。

「ち、違うわよ。捨吉くんが道を外れちゃったのよ」

 若干慌て気味に言い、ゆいは頭や身体についた葉っぱを払う。
 どうやらまた捨吉を襲っていたようだ。
 呆れるほどの肉食である。

「はぁ。全く、結局皆勢揃いってことね」

 結局最後に来たあきたちも追いついてしまった。
 あきは今来たばかりなので、何があったのかはわかっていないが、捨吉の怯えようとゆいの態度で察したらしい。
 少し離れたところで、複雑な顔をしている。

「自分でぶち壊したんだろうが。ったく、お前は詰めが甘過ぎるんだよ。仕事もそうだぞ。反省しろ」

 渋い顔で清五郎が言い、軽くゆいの頭を叩く。
 はぁい、と不満そうに言うゆいを促し、一行はコテージに戻った。

 その道中。
 一番後ろを歩きながら、あきは悶々としていた。

---捨吉くん、何があったのかしら。多分またゆいちゃんに迫られたんだろうけど、いい加減、はっきり言えばいいのに。それとももしかして、捨吉くんも、まんざらでもないとか? いやでも、あの怯えようは、そうとも思えないし。今なんか二人でチャンスなんだし、嫌なら言うことだって出来たはずよ。まさか、捨吉くんが断ろうとしたことに、ゆいちゃんが怒ったとか?---

 随分としおれた感じで先を歩いている捨吉の後ろ姿を眺めていると、横を歩いていた千代が、ぼそりと口を開いた。

「ほんと、あいつは必死なんだから。まぁ、可愛いと思えなくもないけど。あそこまで積極的なのは、感心するよね」

「確かに……。ちょっと羨ましい」

 ゆいに比べて、あきは大人し過ぎる。

「捨吉もねぇ、もうはっきりすればいいのに。あんたももうちょっと、好意を見せてあげたらどうだい?」

 前を向いたまま言う千代に、あきは何となく頷いてから、我に返って、がばっと振り向いた。

「ち、千代姐さん。なな、何言ってるんですか」

「捨吉、あんたの誕生日にプレゼントくれただろ? まぁ、あんただとは言わなかったけど、バレバレだっての。あんただってあいつのこと、嫌いじゃないんだろ?」

 赤くなって口をぱくぱくしているあきを面白そうに見ながら、千代が笑う。
 あき自身は態度には出していないと思うが、捨吉がプレゼントのことで相談したことで、千代は感づいたようだ。

「ま、上手くいっても同じ部署だし、ちょっといろいろやりにくいかもだけどねぇ」

 ふふふ、と笑う千代は、前を歩く真砂を見た。
 結局深成は、真砂に負ぶわれたままだ。

「普通はあそこまでべったりだったら引くけど。あの二人は例外だねぇ。不思議だわ」

「千代姐さんは、ああいうの気にならないんですか」

 千代だって真砂を好いている。
 好いた男が他の女とべたべたしていたら気になるものなのではないだろうか。
 が、千代は少し首を傾げた。

「う~ん。ていうかさ、深成よりも真砂課長のほうが、深成に構ってる気がするし。深成もさぁ、犬っころみたいに課長に懐いてるだろ。嫌味がないんだよねぇ」

「それは……確かにそうですねぇ」

 真砂と深成は、恋人同士というよりは、飼い主と犬のようだ。
 甘やかな空気がない。
< 314 / 497 >

この作品をシェア

pagetop