小咄
「それにね、さっき、真砂課長と歩いてきたときに、少し話したんだけど」
千代はゆっくりと歩調を緩め、他の者らと距離を取る。
「課長、深成のこと可愛いって仰った」
え、とあきが思わず足を止める。
「ま、真砂課長が? 自らそんなこと言ったんですか?」
「いや、まさか。私がちょっと突っ込んでみたんだよ。深成が入って、課長も随分楽になりましたね、から入って、深成は課長にも物怖じしないし、新鮮ですねって」
ふむふむ、とあきは自分のことなど放っぽり出して食いつく。
「したら、珍しく『可愛い奴ではあるな』って。ちょっとびっくりした」
「うわっ! 課長が可愛いなんて、言うんですねぇ!」
「だろ? 私もびっくりしてさ。でもやっぱりさらっと『清五郎もそう言うしな』って言うしさ。表情は変わらないし、一般論とも取れるけど」
「えー、でも真砂課長は、そういうこと言うこと自体がないですもん。本気ですよ」
「そう思う。課長もさ、結構迂闊だよね。私たち、どれだけ課長のこと見てると思ってるのさ。一般論で言ったかそうでないかぐらい、わかるっての」
あはは、と明るく笑う。
あきも笑いながら、千代を窺った。
無理している風は全然ない。
ということは、千代はもう真砂のことは、すっぱり諦めたのだろうか。
「千代姐さんは、真砂課長が深成ちゃんを好きでもいいんですか?」
聞いてみると、千代は、ふふ、と笑って足元の石ころを軽く蹴った。
「しょうがないだろ。元々真砂課長を振り向かすことなんて、出来るとは思ってなかったし。どんだけ迫っても全く落ちない課長が素敵だっていうのもあるんだよね。今でも好きだよ。でもねぇ、やっぱり憧れの意味合いが強い」
「そうなんだ……」
「でも深成に落ちるとは思わなかったけど」
またおかしそうに笑いながら言う。
「でもそれも、深成を見てるとわからないでもないかな、と最近思う。あいつは可愛いもの。誰にでも好かれるよ」
「千代姐さんだって、誰にでも好かれるじゃないですか」
あきが言うと、千代は、う~ん、と首を傾げた。
そして、じ、とあきを見る。
「私やあんたは、何て言うか……普通というか。男からしたら、恋愛対象として普通に見るだろ。だから深成とはちょっと違うよ。深成は、恋愛対象ではない、というか。それこそ犬みたいに、皆に懐いて皆に好かれる。もちろんそこから本気で深成を恋愛対象として意識することもあると思うけどね」
「真砂課長や、羽月くんみたいにですか」
こくりと千代が頷く。
何となくわかる。
例え捨吉が深成に惹かれても、悲しくはあるが、深成を恨む気にはならないのだ。
深成に『女』っぽいところがあまりないからだろうか。
だから恋愛とあまり結びつかないのかもしれない。
「深成ちゃんは、『女』っていうより『子供』ですもんね」
「そう。可愛い子供だよ。子供相手に、嫉妬は起きない」
「深成ちゃんにとっては、良いことなんですかねぇ」
「恨まれることはないからね。ま、真砂課長に好かれてるんだったら、それでいいじゃないか」
あはは、と二人して笑っているうちに、コテージに戻って来た。
「あたしっ、シャワー浴びてくる」
戻るなりゆいが、怒ったように浴室に駆けて行く。
何となく皆リビングに集まり、車座になった。
「やれやれ。一体何だったんだかな」
清五郎がため息と共に言いながら、ぷしっとビールを開ける。
しおれていた捨吉も、やっと人心地ついたようで、中央に置かれたビールに手を伸ばした。
「でもまぁ、全体的には楽しかったじゃないですか。ああ、折角だから、花火でも持って来れば良かったですわね」
千代が言いながら、ふと隣の真砂を見た。
その背には、いまだ深成がくっついている。
「課長。甲羅がついてますわよ」
「……恐ろしいことに、寝息が聞こえる」
片手で深成を支えながら、真砂が渋い顔で言う。
千代が覗き込むと、深成は真砂のうなじに顔を埋めて、くーすかと眠りこけていた。
千代はゆっくりと歩調を緩め、他の者らと距離を取る。
「課長、深成のこと可愛いって仰った」
え、とあきが思わず足を止める。
「ま、真砂課長が? 自らそんなこと言ったんですか?」
「いや、まさか。私がちょっと突っ込んでみたんだよ。深成が入って、課長も随分楽になりましたね、から入って、深成は課長にも物怖じしないし、新鮮ですねって」
ふむふむ、とあきは自分のことなど放っぽり出して食いつく。
「したら、珍しく『可愛い奴ではあるな』って。ちょっとびっくりした」
「うわっ! 課長が可愛いなんて、言うんですねぇ!」
「だろ? 私もびっくりしてさ。でもやっぱりさらっと『清五郎もそう言うしな』って言うしさ。表情は変わらないし、一般論とも取れるけど」
「えー、でも真砂課長は、そういうこと言うこと自体がないですもん。本気ですよ」
「そう思う。課長もさ、結構迂闊だよね。私たち、どれだけ課長のこと見てると思ってるのさ。一般論で言ったかそうでないかぐらい、わかるっての」
あはは、と明るく笑う。
あきも笑いながら、千代を窺った。
無理している風は全然ない。
ということは、千代はもう真砂のことは、すっぱり諦めたのだろうか。
「千代姐さんは、真砂課長が深成ちゃんを好きでもいいんですか?」
聞いてみると、千代は、ふふ、と笑って足元の石ころを軽く蹴った。
「しょうがないだろ。元々真砂課長を振り向かすことなんて、出来るとは思ってなかったし。どんだけ迫っても全く落ちない課長が素敵だっていうのもあるんだよね。今でも好きだよ。でもねぇ、やっぱり憧れの意味合いが強い」
「そうなんだ……」
「でも深成に落ちるとは思わなかったけど」
またおかしそうに笑いながら言う。
「でもそれも、深成を見てるとわからないでもないかな、と最近思う。あいつは可愛いもの。誰にでも好かれるよ」
「千代姐さんだって、誰にでも好かれるじゃないですか」
あきが言うと、千代は、う~ん、と首を傾げた。
そして、じ、とあきを見る。
「私やあんたは、何て言うか……普通というか。男からしたら、恋愛対象として普通に見るだろ。だから深成とはちょっと違うよ。深成は、恋愛対象ではない、というか。それこそ犬みたいに、皆に懐いて皆に好かれる。もちろんそこから本気で深成を恋愛対象として意識することもあると思うけどね」
「真砂課長や、羽月くんみたいにですか」
こくりと千代が頷く。
何となくわかる。
例え捨吉が深成に惹かれても、悲しくはあるが、深成を恨む気にはならないのだ。
深成に『女』っぽいところがあまりないからだろうか。
だから恋愛とあまり結びつかないのかもしれない。
「深成ちゃんは、『女』っていうより『子供』ですもんね」
「そう。可愛い子供だよ。子供相手に、嫉妬は起きない」
「深成ちゃんにとっては、良いことなんですかねぇ」
「恨まれることはないからね。ま、真砂課長に好かれてるんだったら、それでいいじゃないか」
あはは、と二人して笑っているうちに、コテージに戻って来た。
「あたしっ、シャワー浴びてくる」
戻るなりゆいが、怒ったように浴室に駆けて行く。
何となく皆リビングに集まり、車座になった。
「やれやれ。一体何だったんだかな」
清五郎がため息と共に言いながら、ぷしっとビールを開ける。
しおれていた捨吉も、やっと人心地ついたようで、中央に置かれたビールに手を伸ばした。
「でもまぁ、全体的には楽しかったじゃないですか。ああ、折角だから、花火でも持って来れば良かったですわね」
千代が言いながら、ふと隣の真砂を見た。
その背には、いまだ深成がくっついている。
「課長。甲羅がついてますわよ」
「……恐ろしいことに、寝息が聞こえる」
片手で深成を支えながら、真砂が渋い顔で言う。
千代が覗き込むと、深成は真砂のうなじに顔を埋めて、くーすかと眠りこけていた。