小咄
---てことは、深成ちゃんは日曜日に、課長のお家でチョコを作ってあげるってことなのかしら?---

 おっ? もしかしてチョコは深成自身だったりするのか? とか、にまにま考えていると、真砂がちろ、とコピー機のほうを見た。
 そこにいる捨吉とゆいを見、あきに視線を戻す。

「……まぁ大してそこに拘りはない、というのが本音かな。好いた奴からなら、別に買ったものだっていいと思うぜ」

 恋愛感覚が大幅にズレている真砂にしては気の利いた答えを残し、さっさと自席に戻る。
 えっと、とあきは、真砂を見た。

 捨吉とゆいを見て、あきが言わんとしていることを察したのだろう。
 真砂も何気にあきのお陰で恋愛スキルが上がっているかもしれない。

---つまり、手作りだろうが市販のだろうが気にするなってことか。つか課長、思いっきり捨吉くん見て言ったわね。その上であたしにああいうこと言うのって、どういうことなの。捨吉くんの気持ちを知ってるの? スキーの帰りに、そんなこと言ってたわねぇ。期待していいわけ? でも今のゆいちゃん、ちょっと可愛いじゃない---

 う~むう~む、と頭を悩ませていると、捨吉が席に戻ってきた。
 コピーした資料と、ゆいに貰ったカップケーキを机に置く。

「でか! 何それ」

 千代が驚いた顔でカップケーキを見る。
 そして、横のあきに視線を転じた。

 千代はちょっと席を外していたので、ゆいとのやり取りを知らないのだ。
 あきがあげたものだと思ったらしい。

「ゆいさんに貰ったんですけど。意外だな、ゆいさん、料理出来るんだ」

「ほー。なぁんだ、あたしゃてっきりあきからかと」

 さらっと言われ、あきは狼狽えた。

「ち、千代姐さん」

「何狼狽えてるんだ。私と深成でないって時点で、あんたしかいないだろ。それだけの理由だよ」

 ふふ、と笑う。
 ちなみに深成は大きなチロルチョコのパックを持ってきた。
 机の中央に置いて、皆で食べるスタイルだ。
 VDなのに、自分が一番食べているが。

 そこへ、二課から羽月がやってきた。
 定時前で、皆いる時間帯なのに、またも空気を読まず深成に駆け寄る。

「深成ちゃん。明後日、空いてる? これ一緒に行かない?」

 ぴら、とミラ子社長からのVDチケットを見せる。
 あ~あ、とあきは頭を抱えた。

---ほんっと、羽月くんて残念だわ。この行動力は尊敬するけど、何でここでこういうことを言えるの。真砂課長の目の前だってのに---

 あきが横目で真砂を窺った。
 以前のように、羽月が来ただけで反応するようなことはなく、普通にPCに目を落としている。

「週末は忙しいんだ。それ、他の人と行って」

 ごめんね、と言いつつも、深成はばっさりと斬る。
 あっさり振られ、固まる羽月を見つつ、あきは再び、そっと上座に目を移した。
 相変わらず、真砂は無反応でPCを叩いている。

---何か……今までとは雰囲気が違うわね? 無理して気にしないふりしてる感じでもないわ。何か、深成ちゃんは羽月くんに靡くことはないっていう、絶対的な自信があるような。つか、週末忙しいって? 課長とのデートってこと?---

 きっとそうだ、と含み笑いしていると、定時のチャイムが鳴った。

「さて。じゃ今日はわらわ、もう上がっちゃうね」

 机の上の書類をまとめて言う深成に、あきは顔を上げた。

「最近週末は早いね。何か習い事でも始めたの?」

「え、う、ううん。そういうんじゃないけど」

 へら、と笑って、そそくさと帰り支度をする。
 別にやらねばならない仕事はちゃんと終えているので問題はない。

「あんちゃん、そのチョコ食べちゃってね。お先に失礼しま~す」

 残りのチロルチョコを指さして言い、たたたーっと深成がフロアを飛び出していく。
 転ばないようにね~、と言いつつ、あきは目尻を下げた。

---課長絡みだわね……---

 ふふふふふ、と含み笑いするあきは、自分のチョコのことなど、すっかり忘れているのであった。
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