小咄
 六郎は真砂をまじまじと観察した。
 確かに世の女子が惚れそうな、整った顔立ちだ。
 背も高い。
 スタイルも良い。

 歳は己よりも、若干下だろうか。
 だがこのシェアハウスの仲間の中では、最年長だろう。
 歳に見合っただけ、しっかりしていそうだ。

 しかし、と六郎は、渋い顔で真砂を睨み付けた。
 この男、その良い外見をぶち壊すだけの、性格の悪さではないか!
 拳を握り締め、心の中で叫ぶ。

 ふと深成が六郎を見、あ! と声を上げた。
 そして、びしっと壁に掛けてある時計を指差す。

「大変! もうこんな時間! 六郎兄ちゃん、電車なくなっちゃった!」

「え」

 見ればすでに、時計はとっくに十二時を回っている。
 そういえば、すでに千代は引き上げている。

 千代は夜更かしは絶対にしない。
 (夜中に起き出して、真砂の部屋に忍んで行くことはあるようだが)
 何でも夜十時から二時は、お肌のシンデレラタイムだとか何だとか。

「ああもう。千代、一言言ってから寝てよ〜」

「おやすみって言ってたよ」

 頭を抱える深成に、あきがその辺を軽く片付けながら言う。
 どうやら一番盛り上がっているときに引き上げたらしい。
 全く気付かなかった。

「しょうがないね〜。何日か、こっちに泊まる予定ではあったんでしょ? 帰らないといけないわけじゃないよね?」

 あっさりと諦め、深成は六郎に言った。

「うん、まぁそうだけど。でもここに泊めてもらうにしても……」

 六郎が、きょろ、と家の中を見回した。
 客間などというものはない。
 取ってあるホテルまで送って貰おうにも、唯一車を運転出来る真砂は飲んでいるし、それ以前にこの男がこの夜中に、わざわざ遠いホテルまで送ってくれるとも思えない。

 泊めて貰うとしたら、このリビングのソファで寝るしかないか、と思っていると、深成が少し考えながら、口を開いた。

「じゃ、わらわと一緒に寝る?」

 ちょい、と自分の部屋を指す。
 六郎の動きが止まった。

「な、ななな……。み、深成ちゃん、何てことを」

 焦る六郎を気にもせず、当たり前のように、深成は首を傾げた。

「だって、お客さん用のお布団なんて、ないんだもん。あ、でもわらわのベッド小さいから、六郎兄ちゃんには狭っ苦しいだろうけどさぁ」

「い、いや、そういう問題じゃなくてね……」

 動揺しまくりの六郎を、自分の部屋に身体半分入った状態のあきが、じぃっと眺める。

ーーーあらあら、急展開。ふふふ、どうすんのかしら。深成ちゃんたら、ほんとお子様なんだから。あれだけ六郎さんが焦ってるのに、全然気付かないなんて。ていうか、六郎さん、わかりやすすぎ。このままほんとに深成ちゃんと寝るハメになったら、どうなってしまうのかしらっ! ああ、いけない。面白すぎて、鼻の奥が熱くなってきちゃったーーー

 おやすみ、と言うと、あきはそそくさと部屋に入って行った。
 おそらく鼻血が出てきたのだろう。
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