小咄
「おやすみ〜、あきちゃん。じゃ、六郎兄ちゃん、どうぞ〜」

 呑気にひらひらと手を振り、深成は自分の部屋を開ける。
 今日は朝の一発だけで、後はずっと真砂も一緒に外出だったため、他の罠はない。
 てこてこと部屋に入ろうとする深成だったが、その腕を、いきなり捨吉が掴んだ。

「駄目だよっ! 深成、女の子が簡単に男を部屋に入れちゃ駄目だ」

「へっ?」

 きょとんとする深成を引き寄せ、捨吉は小さい子に言い聞かせるように言う。

「深成のベッドは小さいんだよ。ぬいぐるみもいっぱいじゃないか。あそこに二人で寝られると思うのかい? ぬいぐるみが落ちてしまうよ?」

 ちょっと論点がずれている。
 それとも大人な世界のことを言っても無駄だから、わかりやすい例えにしただけだろうか。
 案の定深成は、そうか、と納得した。

「でもさ〜、掛け布団もないのに、ソファで寝て貰うのは可哀想じゃん。あ、真砂のベッドは大きいじゃん。真砂と寝ればいい!」

 良いことを思いついたように、ぱ、と笑って言った深成に、真砂がこの上なく渋い顔を向けた。

「冗談だろ。何故俺が、男と寝ないといかんのだ」

「だって、あんちゃんのベッドだって小さいもん。いいじゃん、真砂のベッドにはクッションしか置いてないし、余裕で二人ぐらい寝られるんだし」

「嫌だね」

 ぷい、とそっぽを向く真砂に、ぶぅ、と膨れた深成だったが、特に困った素振りも見せず、再び六郎を引っ張った。

「じゃ、やっぱりしょうがないじゃん。狭いけど、我慢してね」

「い、いやっ……。み、深成ちゃん……」

 妙な汗を流しながら、六郎が足を踏ん張る。

「駄目だって〜」

 捨吉が異を唱える。
 その様子を冷めた目で見ていた真砂が、不意にぐいっと深成の腕を掴んだ。

「だったら、お前が俺のところで寝ればいい」

 そう言って、己の部屋のドアを開ける。
 自分のベッドを深成に開け渡そうというのではない。
 真砂はそのまま、深成を連れて部屋に入ろうとする。

「ちょ、ちょっと待て!」

 固まっていた六郎が、我に返って叫んだ。
 同時に真砂と反対側の、深成の腕を掴む。

「そ、そんなこと、許せるわけないだろう!」

「……何故だ」

「あ、当たり前ではないか!」

 二人の間に火花が散る。
 深成は己の頭の上で飛び散る火花を見上げ、次いで六郎に視線を転じた。

「それが良いかも。わらわが真砂と一緒に寝れば、六郎兄ちゃんもわらわのベッドで、のびのび寝られるでしょ」

「!!!」

 六郎が、再び驚愕の表情で固まる。
 何も考えていない呑気な深成の向こうから、真砂が勝ち誇ったように、ふふんと笑った。
 かなりのダメージを受け、言葉も出ない六郎だったが、意外にそこに、別の能天気な声が割り込んだ。

「そ〜うだ。一番良いこと考えついたよ。真砂さんのところで、深成も六郎さんも寝ればいい。三人で寝れば、安心でしょ?」

 にこにこと、明るく捨吉が言う。

「そっか! それがいいや! わ〜、楽しそう。あんちゃんも入る?」

「それはさすがに無理だよ〜。はいこれ。じゃ、おやすみ〜」

 自分の提案に満足した捨吉は、深成の部屋から、うさぎのぬいぐるみを一つ彼女に渡すと、さっさと自分の部屋に引っ込んだ。
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