小咄
「ま、とにかく外に出たからといって、あまり勝手な行動するんじゃないぞ」
「承知」
「おぬしが己の意思で章親を困らすようなことはないと思うがな」
確かに惟道が自ら騒動を起こすことはない。
ただその存在が、周りを勝手に動かしてしまうことは多々あるのだが、そういう細かいことは理解しない魔﨡なので、錫杖を担いでとっとと和室を出て行った。
惟道は足元に転がっているもけもけクッションを取り上げ、また庭を向いてぼんやりする。
しばし静寂に包まれていた和の空間に、またささやかな音が響きだす。
釣り灯篭が揺れ、池の水が跳ね、玉砂利が小さく弾ける。
きぃきぃ、きゃきゃきゃ。
濃密な空気に包まれ、惟道は息をついた。
膝の上のもけもけクッションが僅かに動き、甘えるようにぺとりとくっつく。
「外の世界か……」
大学も外の世界といえばそうだが、人との関わりではバイトのほうが多いだろう。
「お前たちとは、また違うのであろうか」
ひょい、とクッションを持ち上げる。
周りの空気も、何となく心配そうだ。
「お前たちを連れて行けたらな……」
ぼそ、と呟く惟道に、周りの空気もちょっと悲しそうになる。
ふと、惟道は思いついて手を打った。
「そうだ。お前たちは他の者には見えないようだから、連れて行っても構わないか」
わ、と周りの空気が嬉しそうな雰囲気になるが、膝の上のもけもけクッションだけが、不満を露わにぽんぽん跳ねる。
が、そこにいきなり章親が割り込んだ。
「駄目だよっ。他の人たちだって侮れない。結構見える人っているもんなんだ。それに、皆悪戯好きだから大人しくしてられないよ。騒ぎを起こされたら、学校よりも処分は重いよ」
「そういうもんか」
「そう。だから皆、ついて行っちゃ駄目だよ。惟道に迷惑がかかるからね」
しゅん、となりつつも、周りの空気は素直に引き下がる。
それに、章親は安心したように息をついた。
「……全く、皆心配性なんだから」
言いつつ惟道の横に座る。
その様子を、和室の入り口から顔半分出して、宮と魔﨡が眺める。
「……あんたが一番心配性だっての」
不満そうに口を尖らせて、宮が言う。
「章親は優しいからのぅ。惟道のような、ぼーっとした者は放っておけぬのじゃろ」
「まぁ、章親みたいに自然と邪悪なものを遠ざける能力はないでしょうしね」
「そのような稀有な空気、章親にしか持てん」
ふふん、と何故か誇らしげに言う魔﨡に、宮はちょっと眉を顰めた。
とにかくこの姉と視線の先の弟は章親LOVEだ。
「惟道はそういうものを遠ざけるどころか、するっと簡単に取り込んでしまう。ま、その自衛のための能力が、見えざるものを見れる力、ということかの」
ちょい、と和室の中を指差す。
釣り灯篭が揺れ、木々も不自然にさわさわ揺れている。
「見えてもそれがどういうものかわからなかったら同じじゃない?」
「そこは長年の経験で、何とかなるのであろ」
ふわ、と欠伸をし、魔﨡はリビングに戻っていく。
宮は和室の中の惟道を眺めた。
今もいろいろなものが惟道に群がっているのだろう。
だが何の反応もない惟道は、悪いものは避ける、という風には見えない。
むしろ何でもかんでも寄ってくるものは相手をしそうだ。
---ま、あいつは章親のいい空気を存分に取り込んでるから、そのお陰で悪いものは弾かれるんでしょ。結局章親が、惟道を守ってるってことよねぇ---
はぁ、とため息をつく。
「どうしたのさ、ため息なんかついて。何か心配事?」
はた、と気付けば、いつの間にやら章親が覗き込んでいる。
「あ、折角一緒に勉強しようって言ってたのに、ちょっと放ったらかしちゃったね。ごめん」
章親が、慌てたように謝った。
宮を放って惟道の相手をしていたので、宮が拗ねたと思ったらしい。
「私がそんな小さいことで拗ねると思うわけっ?」
「僕は宮がそんなことで妬いてくれるのは嬉しいけど」
さらっと言われ、宮は赤くなった。
「だって宮はいっつも上からだけど、不安なのかなって可愛く思うよ」
「な、何言ってんの。大体不安にさせるなんて最低なんだからねっ」
「うん、そうだね。それはほんとにごめん」
にこにこと微笑む章親に毒気を抜かれ、宮は緩む頬を気取られないよう、ぷいっとそっぽを向いた。
そんな微笑ましい二人を、和室の奥から惟道が眺める。
惟道の目には、宮はとても奇異なものに見える。
くるくるとよく表情は変わるし、言うことも拗ねるだの不安だの理解不能だ。
それに、嬉しそうな空気を発しているくせに、表情と言葉は伴っていない。
何とも不思議な生き物だ。
「人とは不可思議な生き物であるな」
膝の上のもけもけクッションを弄びながら、惟道は、ぼそ、と呟くのであった。
・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆
安倍家の一日……つーか、惟道の一日であります。
ていうか! 惟道で初ですよ! 夜香花キャラ一切なしの回は!
てことは何気に真砂と張る人気ってことで(そうなの?)。
……いいのか、それ( ̄▽ ̄;)
ほとんど半妖な惟道と、人としてどうなの、という真砂が人気を二分してるって。
まともなキャラは、こいつらには勝てないってことか。
それにしても、惟道って難しい。
能動的すぎるんかな。
本人の挙動はほとんどないのに、周りが放っとかないせいで、書いてても周りがわちゃわちゃ入ってきて終わらないんですよ。
今回は短編で、と思ってて、ほんとはこれの半分ぐらいで終える予定でした。
なのに周りが惟道を構う構う。
お陰でずるずると長くなってしまいました。
それでもまぁ一日で区切ったからマシだけども。
ここでの設定は、惟道二十歳、章親二十一歳ですが、これだけ構われる成人男子ってどうなんですかね……。
2019/04/26 藤堂 左近
「承知」
「おぬしが己の意思で章親を困らすようなことはないと思うがな」
確かに惟道が自ら騒動を起こすことはない。
ただその存在が、周りを勝手に動かしてしまうことは多々あるのだが、そういう細かいことは理解しない魔﨡なので、錫杖を担いでとっとと和室を出て行った。
惟道は足元に転がっているもけもけクッションを取り上げ、また庭を向いてぼんやりする。
しばし静寂に包まれていた和の空間に、またささやかな音が響きだす。
釣り灯篭が揺れ、池の水が跳ね、玉砂利が小さく弾ける。
きぃきぃ、きゃきゃきゃ。
濃密な空気に包まれ、惟道は息をついた。
膝の上のもけもけクッションが僅かに動き、甘えるようにぺとりとくっつく。
「外の世界か……」
大学も外の世界といえばそうだが、人との関わりではバイトのほうが多いだろう。
「お前たちとは、また違うのであろうか」
ひょい、とクッションを持ち上げる。
周りの空気も、何となく心配そうだ。
「お前たちを連れて行けたらな……」
ぼそ、と呟く惟道に、周りの空気もちょっと悲しそうになる。
ふと、惟道は思いついて手を打った。
「そうだ。お前たちは他の者には見えないようだから、連れて行っても構わないか」
わ、と周りの空気が嬉しそうな雰囲気になるが、膝の上のもけもけクッションだけが、不満を露わにぽんぽん跳ねる。
が、そこにいきなり章親が割り込んだ。
「駄目だよっ。他の人たちだって侮れない。結構見える人っているもんなんだ。それに、皆悪戯好きだから大人しくしてられないよ。騒ぎを起こされたら、学校よりも処分は重いよ」
「そういうもんか」
「そう。だから皆、ついて行っちゃ駄目だよ。惟道に迷惑がかかるからね」
しゅん、となりつつも、周りの空気は素直に引き下がる。
それに、章親は安心したように息をついた。
「……全く、皆心配性なんだから」
言いつつ惟道の横に座る。
その様子を、和室の入り口から顔半分出して、宮と魔﨡が眺める。
「……あんたが一番心配性だっての」
不満そうに口を尖らせて、宮が言う。
「章親は優しいからのぅ。惟道のような、ぼーっとした者は放っておけぬのじゃろ」
「まぁ、章親みたいに自然と邪悪なものを遠ざける能力はないでしょうしね」
「そのような稀有な空気、章親にしか持てん」
ふふん、と何故か誇らしげに言う魔﨡に、宮はちょっと眉を顰めた。
とにかくこの姉と視線の先の弟は章親LOVEだ。
「惟道はそういうものを遠ざけるどころか、するっと簡単に取り込んでしまう。ま、その自衛のための能力が、見えざるものを見れる力、ということかの」
ちょい、と和室の中を指差す。
釣り灯篭が揺れ、木々も不自然にさわさわ揺れている。
「見えてもそれがどういうものかわからなかったら同じじゃない?」
「そこは長年の経験で、何とかなるのであろ」
ふわ、と欠伸をし、魔﨡はリビングに戻っていく。
宮は和室の中の惟道を眺めた。
今もいろいろなものが惟道に群がっているのだろう。
だが何の反応もない惟道は、悪いものは避ける、という風には見えない。
むしろ何でもかんでも寄ってくるものは相手をしそうだ。
---ま、あいつは章親のいい空気を存分に取り込んでるから、そのお陰で悪いものは弾かれるんでしょ。結局章親が、惟道を守ってるってことよねぇ---
はぁ、とため息をつく。
「どうしたのさ、ため息なんかついて。何か心配事?」
はた、と気付けば、いつの間にやら章親が覗き込んでいる。
「あ、折角一緒に勉強しようって言ってたのに、ちょっと放ったらかしちゃったね。ごめん」
章親が、慌てたように謝った。
宮を放って惟道の相手をしていたので、宮が拗ねたと思ったらしい。
「私がそんな小さいことで拗ねると思うわけっ?」
「僕は宮がそんなことで妬いてくれるのは嬉しいけど」
さらっと言われ、宮は赤くなった。
「だって宮はいっつも上からだけど、不安なのかなって可愛く思うよ」
「な、何言ってんの。大体不安にさせるなんて最低なんだからねっ」
「うん、そうだね。それはほんとにごめん」
にこにこと微笑む章親に毒気を抜かれ、宮は緩む頬を気取られないよう、ぷいっとそっぽを向いた。
そんな微笑ましい二人を、和室の奥から惟道が眺める。
惟道の目には、宮はとても奇異なものに見える。
くるくるとよく表情は変わるし、言うことも拗ねるだの不安だの理解不能だ。
それに、嬉しそうな空気を発しているくせに、表情と言葉は伴っていない。
何とも不思議な生き物だ。
「人とは不可思議な生き物であるな」
膝の上のもけもけクッションを弄びながら、惟道は、ぼそ、と呟くのであった。
・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆
安倍家の一日……つーか、惟道の一日であります。
ていうか! 惟道で初ですよ! 夜香花キャラ一切なしの回は!
てことは何気に真砂と張る人気ってことで(そうなの?)。
……いいのか、それ( ̄▽ ̄;)
ほとんど半妖な惟道と、人としてどうなの、という真砂が人気を二分してるって。
まともなキャラは、こいつらには勝てないってことか。
それにしても、惟道って難しい。
能動的すぎるんかな。
本人の挙動はほとんどないのに、周りが放っとかないせいで、書いてても周りがわちゃわちゃ入ってきて終わらないんですよ。
今回は短編で、と思ってて、ほんとはこれの半分ぐらいで終える予定でした。
なのに周りが惟道を構う構う。
お陰でずるずると長くなってしまいました。
それでもまぁ一日で区切ったからマシだけども。
ここでの設定は、惟道二十歳、章親二十一歳ですが、これだけ構われる成人男子ってどうなんですかね……。
2019/04/26 藤堂 左近


