傷ついてもいい
「じゃあねえ、おやすみぃ」

駅で麻衣子と別れ、電車に乗った。

吊革につかまり、ぼんやりしていると「佳奈さん」と声をかけられた。

「良かったあ、また閉め出されるとこだったよ」

振り返ると直己がスーツ姿で立っていた。

「ああ、直己。今日、最終面接だって言ってたよね」

「うん」

直己は、ニコニコ笑っている。

「決まったんだ」

「そっかあ!良かったねえ!」

佳奈は、嬉しいのと寂しいので泣きそうになる。

もう、直己には、私は必要無いんだ。

こんな風に帰ることも、もう。

「お祝いしなくちゃね」

「なに作ってもらおうかなあ」

直己は、「ハンバーグ?焼肉?焼肉は、料理じゃないか」などとブツブツ独り言を言いはじめる。

佳奈は、鞄からそっとハンカチを取り出して、涙と鼻水をおさえた。

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