傷ついてもいい
佳奈がそう言うと、麻衣子は不意に昔を思い出すように言った。

「そんなに好きじゃない人と結婚したほうがきっと幸せだよ」

「なんで?」

佳奈は、麻衣子を見た。
なんだか少し悲しそうにみえる。

「あたしもいたの。大学んとき、すっごい好きで、しばらく一緒に住んでたひと」

「そうなんだ」

麻衣子の過去を聞くのは初めてだった。

「けど、ちょっと浮気癖のある男だったからさあ、ケンカばっかりしてた。けど好きだったんだよねえ。傷ついても傷ついても、離れられなかった」

「そっか…」

「傷つくのがわかってんのに、離れられないって、女ってバカだよねえ」

麻衣子は、カラカラと氷を揺らして笑う。

「ほんとだね」

佳奈も直己のことを想いながら、そう思った。

< 72 / 179 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop