もうスキすぎて~ヤクザに買(飼)われた少女~


いつもは道端や廊下にぶん投げている、ヨレヨレになったスクール鞄を胸の前でギュッと抱き締めた。



鞄が大事なわけじゃなく、どこかに力をいれていたかったんだと思う。



誰かが口を開いたと同時に走ろう。



そう決めた途端に心臓の音がやたらと大きく聞こえた。



運動神経は悪いほうではないと思う。



真剣にやったことがないから、自分の実力が以下程なのかは知らないけれど……



ドクンドクンと大きくなる心臓の音が、カウントダウンのように私の気持ちを焦らせた。



張り詰めたこの空気を壊したのは、またしてもこの空気を作り出した張本人。



ハイテンション男だった。



走りだすタイミングを見極めようと、4人の口元を真剣に見ていた私は“出遅れないように”と真剣だった。



のに、やられた。



そうくるとは思っていなかった。



ジュンの肩をバシバシと叩きながら、大きな声で笑いだす男。



「そのくそ生意気な所も、相手が誰ってのを気にしねぇのも昔のシンにそっくりだ!!やっぱり親子だな」



「……っ、似てねぇよ」



「いやいや、今のアイツには似てないけどな。昔はそんなんだったんだよ。や、もっと酷かったな」



完璧に走りだすタイミングを見失った。



あんな風に大笑いするなんて、予想外で男とジュンの会話を聞き入ってしまった。



我に返った今は……もう既に遅し。



「だから、あんな奴に似てねぇって!!」



ジュンの怒鳴り声にピクッと体が反応する。



きっと、ジュンが何を言っても、何をしてもハイテンション男はキレないんだろうけど……



今のところの流れ的には、そんな気がする。



けど、やっぱりハラハラしてしまう。

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