バスボムに、愛を込めて
「自分の意思で誰かに触れたいと思ったのなんて、本当に久しぶりだった。ついでに、こんなに汚れる遊びをしたのもな。だからといって、今すぐお前を喜ばせるようなことは軽々しく口にできないが、これだけは言っておく。
――――今日は、楽しかった」
……本郷さん。それは十分すぎるほど、あたしを喜ばせる言葉ですよ……?
今度は本当に涙が出そうになって、思わずうつむいたあたしの頭に、本郷さんがそっと手を乗せた。
「次は、お前の行きたいところに行こう」
そんな、素敵すぎる約束まで残して。
コクコクと頷くことしかできないあたしを、本郷さんは最後にちょっとだけ小突いて言った。
「休み明け、そんな感じで仕事に出てくるなよ。いつまでも呆けた顔してると、さっきの約束はなかったことにする」
「それはいやです……っ!」
あたしが力んで言うと、本郷さんは満足そうに微笑んで、あたしに背を向けた。
別れの挨拶は「じゃあな」の一言だけで、歩き出したその背中はどんどん小さくなる。
嘘みたいに楽しくて充実した一日は、最後までときめきが止まらなくて。
あたしは本郷さんが見えなくなってもしばらくそこにいて、悲しみとは違う理由で湧きあがる涙のせいで滲む夜空を眺めていた。