バスボムに、愛を込めて


黙って次の言葉を待っていると、彼は「葛西の時も同じ」と、自嘲気味に続けた。


「アイツは綺麗だし、性格もさっぱりしてるから、“本気で好きになれるかも”と思ったが、そうはならなかった。……だから最近はもう、自分は恋愛に向かないのだと決めつけていたし、特にしたいとも思わなかった」


でも……と言って、本郷さんが眼鏡の奥の瞳を細めた。
そして自分の目の前にゆっくり手のひらをかざし、それを見つめながら、また口を開く。


「今日は、自然にお前の手を握りたくなった」


トクン、とあたたかいものが、心臓から指先まで流れる感覚がした。

いつものあたしなら、わかりやすく感激して、大人気なくはしゃぐところだけど……胸が詰まってしまって、うまく声が出なかった。

もしかしたら、今まであたしが恋だと思っていたものは、憧れの延長みたいなもので……本当の恋は、こんな風に簡単に言葉にできない気持ちなのかもしれない。

嬉しいのに、何故か泣きたくなって……目の前の本郷さんが、愛しくてたまらない。


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