バスボムに、愛を込めて


「……おはよう、飛鳥ちゃんどうしたの?」

「あ……美萌さん……っ」


いきなりガタン、と席を立ち、あたしに抱きついてきたお嬢。

どどどどうしたの? お嬢も恋で辛いことがあったの?……ってそれはあたしだけだよね。

でも、彼女の涙を見るのはチーム結成初日以来。
ただごとじゃないと思って、あたしは彼女の顔を覗き込む。


「今朝……、私コーヒー飲んでからここへ来たんですけど。そのカフェに、大事な企画書のデータが入ってるUSB、落としてきちゃったみたいで……っ」

「ええっ!?」


あたしの反応を見て、やっぱり重大事なんだと確信したらしいお嬢はますます大量の涙を流し始めてしまう。

大変だ。お嬢がメインで進めている“スイーツ系”の企画書のデータは、彼女しか持っていない。

あれがないと何にもできないし、第一会社の外には絶対に漏れちゃいけない情報なのに。


「お店に連絡は?」

「ここに着いてすぐにしました。でも、そんなの落ちてなかったって……」

「他の場所で落としたって可能性は?」

「たぶんないです。私、バッグを開けっぱなしにして椅子に座ってて、帰ろうと椅子から降りる拍子にそれを落としたんです。それで、色んな物を床にぶちまけてしまって……落としたならその時に間違いないと思うんです」


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