バスボムに、愛を込めて
16.失くしたUSB


あれから、孝二は孝二なりに、あたしと“幼なじみ”って関係を取り戻そうとしていたんだと思う。
ときたま他愛のない内容のメールが送られてきて、けれどあたしはそれにどう返事をしていいかわからなかった。

だって、上司がむかつくとか、どこそこの飯がうまいから今度行こうとか、今日は雨だけど滑って転ぶなよとか……展示会の日のことに全く触れようとしないそのさりげなさを、逆に不自然に感じてしまうんだもの。

頑張ってね。孝二のおごりなら行くけど今は忙しいから無理。今日は滑りにくい靴履いてるから平気……

あたしがそんな淡泊な返答しかしないからか、次第にメールが送られてくる頻度は減ってきて、孝二も少し気持ちが落ち着いてきたのかと少しほっとしていた六月の半ばのこと。

とうとう関東も梅雨に入り、せっかく朝セットした髪が会社に着く頃には広がってしまうのを憂鬱に思いながら、いつもと変わらずあたしは実験室に出勤した。

するとそこには、なぜかしくしくと泣くお嬢の姿が。


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