バスボムに、愛を込めて


寧々さんを置き去りにして(本当によかったのかな?)タクシーで会社に戻る途中、これまでの経緯をお互いに話した。

あたしの行き先がわかったのは、お嬢があっさり口を割ったからで。

孝二の会社では、案内された部署にあたしたちの姿がなく、寧々さんが受付嬢を脅して(?)自由に動き回らせてもらうことを許可してもらったらしい。


「九階に降りたとき、あの雑然とした雰囲気を見て正直最悪の事態が頭をよぎった。でも……本当に何もなくてよかった」


隣同士に座ったシートで、しっかり目を見ながらそんな風に言われたら、あたしの中に少し欲張りな気持ちが出てきた。

こんなに近いし、二人きりだし……って運転手さんはもちろんいるんだけど。

でも、これくらいはいいよね……?

あたしは膝の上に置いていた手をそろそろと伸ばして、少し先にある本郷さんの手をちょんちょん、とつつく。

すると彼はあたしをあんまり怖くない瞳で睨んでから、照れているのか窓の方を向きながら言った。


「……着くまでの間だけだぞ」


そうして重ねられた手は、あたしの指にしっかりと自分の指を絡めると、二人の間にそっと置かれた。

うわぁぁ! これはまさかの恋人繋ぎ……!

潔癖が直ったわけではないと言っていたし、はっきり“好きだ”と伝えられたわけでもないけれど。

あたし、本郷さんの大切な人になれたと思っていいんだよね。

この手から伝わる温もりを、信じていいんだよね。


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