バスボムに、愛を込めて


「一緒に来て欲しい場所がある。一人では無理でも、お前が隣にいてくれれば向き合えそうな気がするんだ」


答えになってない、と一瞬思ったけれど、すぐに思い出した。
前に海に行ったとき、彼が言ってたことを。

『俺がガキなんだ、たぶん。いつかは会わないと……、っていうのもわかってる。でも、まだその勇気がない』

――きっと、本郷さんは、“彼”に会いに行く覚悟ができたんだ。

二人の間にどんな事情があるのか知らないけど、あたしで役に立てるのなら、どこへでもついていく。

本郷さんの目を見て頷くと、彼はあたしの頭をそっと引き寄せ、前髪の上からあたしのおでこに優しいキスをした。


「し、仕事中……!」


思わず、煩悩だらけの自分に似合わない真面目な台詞を吐くと、本郷さんは薄めの唇を三日月の形にして、優しく微笑んだ。


「……病院行く前に栄養補給。倒れた俺が言うのもおかしいが、お前も暑さにやられるなよ」

「は、はい……」


医務室から出たあたしは、はぁ、と息をついて、てのひらを額にあてる。

暑さにやられるな……って言われたけど。
もうすでに、オデコが焼けそうだよ、本郷さん――――。


< 169 / 212 >

この作品をシェア

pagetop