バスボムに、愛を込めて


居酒屋を出た後も、ふわふわおぼつかない足取りで歩いていたあたし。

でも瑛太さんが肩を貸してくれたから、無事に自宅に到着することができた。

皆の前ではクールにしていた瑛太さんだけど、きっと二人きりになれば甘ーい彼になってくれるはず。

あたしはそれを期待して、寝室のベッドの上でずっと瑛太さんのことを待っていたんだけど。


「……来ない」


一人で寝室に放置されたせいか少し酔いもさめてきて、ゆらりと起き上がって部屋の外に出る。

1LDKの狭い家なので、愛しの彼の姿はすぐに見つかった。


「瑛太さん」


リビングでテレビを見ている彼の背中に、そっと声を掛ける。


「……ああ、起きたのか。今、風呂ためてるから一緒に入るか?」

「い、いい一緒に!?」


うわぁぁ。もちろんこれから甘い時間を期待していたわけだし、もう今さら何も隠すところはないんだけど。

一緒にお風呂はかなりハードルが高い。明るいし、すっぴんにもなるし。


「瑛太さんて……眼鏡取ってる時、どれくらい見えてるんですか?」


あわよくば、あたしの身体はぼやけて見えて欲しいな、なんて期待を込めて聞くと、その場で眼鏡を外した彼は、意地悪く微笑んで言う。


「残念だったな。ただの近眼だから、近くのものはよく見える」

「うう……本当に残念です、とても」


がっくりうなだれると、ふいに彼の手の中にあるものが目に付いた。


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