バスボムに、愛を込めて


会社に行けば業務用のマスクがある。着いたらあたしもそれをした方がよさそう。

そんなことを思いながら、本郷さんの隣で小さくなるあたし。


「……で、なんで俺の名前を?」


よくぞ聞いてくれました!


「あたし、入社したの一昨年なんですけど、その入社式で本郷さん誘導係されてましたよね?」


本郷さんは少し考えて、頷く。

そう、あたしは淡々と新入社員に指示を出していた彼に、そのとき一目惚れしてしまったのだ。

名前は首から下げていた社員証でちゃっかりチェックして、あの日から一度も忘れたことはない。

本郷瑛太(ほんごうえいた)――いつか“瑛太さん”とお呼びできる日が来ることを夢見て。


「その時からカッコイイなぁって憧れてて、だから今回同じチームになれたのが嬉しくて……って、本郷さん!?」


気がつけば彼の背中が遠ざかっている。

慌てて追いかけると、振り返った彼はまるで汚いものを見るような目をしていた。


「社長が壇上に上がろうが新入社員が自己紹介を始めようが、ずっと俺を見ている気持ちの悪い女子社員が一人いると思った記憶がある。……あれはもしかして」

「そうです! たぶんそれあたしです! 感激だなぁ、覚えててもらえたなんて……」


本郷さんの記憶の片隅にでも、あたしの存在があったなんて幸せすぎる!


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