バスボムに、愛を込めて


スマホを握ったまま、ばたりと床に倒れ込んだあたし。

だけどどうやら、しぶといあたしの命は尽きていなかったらしい。耳元で、愛しの本郷さんの声が再び聞こえ始めた。

『用と言うのは懇親会のことだ。店探しを頼んであったが、もう決めたか?』

「あ――ごめんなさい! まだ……」


そうだ、孝二がいきなり来たりするもんだからすっかり忘れてた。

せっかく本郷さんからじきじきのお願い事だったのに、不覚……!

焦ったあたしは電話の向こうの彼に見えるわけでもないのに、ガバッと体を起こして正座をした。


『そうか。間に合ってよかった』

「間に合った?」

どういう意味……? とりあえず、怒ってはいないみたいだ。


『席のことなんだが、座敷だけはやめてくれ』

「へ……?」

『座敷だと靴を脱ぐだろ? 俺は靴下で他人に周りをウロウロされるのが許せないんだ。しかも仕事終わりなんて、靴の中には雑菌が大繁殖中だ』


ざ、雑菌……? そんなこと、今まで一度も考えたことがなかった。

だけどそういえば、本郷さんってすごくキレイ好きなイメージだもんなぁ。


「……わかりました。テーブル席で探します」

『よろしく頼む。じゃ』


――え。もももう終わりですか!?


「ちょっと待ってください!」

『……何だ』

「えーと、あ、あのですね……」


せっかく本郷さんと繋がっているこの時間をできるだけ長引かせたくて呼び止めてみたけど、うまい話が思い付かない。


『何もないなら切る』


――待って! あ、そうだ!


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