バスボムに、愛を込めて
「あ、もしかして羽石さん?」
部屋から出てきたのは、キツネっぽいつり目が印象的な、三十代なかばくらいの男性社員。
本郷さん以外に男のひとは確か一人だけだったから、この人はたぶん、責任者の川端(かわばた)さんだ。
「はい、ベースメイクからきた羽石です」
「よかった。とりあえず中に入ってて。あと一人で全員揃うんだけど、その子がここにちゃんと来れるか心配だから、僕はちょっと外を見てくる」
ちゃんと来れるか心配……?
ここはたった二階建ての建物で、別に造りも複雑なわけじゃないし、“第七実験室”って聞けば普通に来れると思うんだけど……
怪訝に思いながら川端さんの背中を見送り、部屋に入ると麗しの本郷さんと、黒髪ロングヘアのよく似合う、綺麗な女性社員がいた。
二人は大きな実験台が二つ並んだ部屋の端に置いてあるホワイトボードの前に立ち、和やかに談笑していた。
うそ……本郷さんが、笑ってる。
今まで遠くから見ていただけとはいえ、本郷さんの笑顔は初めて見た。
意外と少年ぽくて萌える。……って、白衣着てるのに早速煩悩全開じゃない、あたし。
イカンイカン、と首をふるふる振り、先輩方に挨拶するべくあたしは部屋の中へ入った。