地の棺(完)
実際はそんな強い意志なんてなかった。

でもそう思うことで自分自身を奮い立たせる必要があった。

慎重に、慎重に。

木の棒は思いのほか役に立ち、わたしは木にぶつかることも、大きな石に足をぶつけることもなく山の中を歩くことができた。

時折聞こえる鳥の鳴き声や、獣の唸りに心臓が張り裂けそうな程怖かったけど、それでも再び足を止めてしまうと今度こそ動けなくなると知っていたから、必死だった。

二時間ほどたっただろうか。

木の棒が地面を突かず、空をかいた。

穴?

下から吹き上げる強風に、体がぐらつく。

棒を支えにしてなんとか体制を保ったけど、これは……


「崖だわ」


志摩家の裏にあるという崖。

どのくらいの深さがあるのかはわからないけど、一歩間違えば落ちてしまうところだった。

身震いし、慌てて数歩後ろに後ずさる。

やみくもに動き回ったけれど、ひょっとしたら屋敷に近づいているのかもしれない。

僅かに芽生えた希望に、急に体に力が戻った気がした。

崖に落ちないように気を付けながら、木の棒で地面を確かめ前に進む。

屋敷の光を求めて。


見つけたのは、それからさらに一時間はたっていたかもしれない。

小さな白い光。

半信半疑で近づくと、次第にはっきりと見えてくる屋敷の姿。

溢れる涙のせいで視界は歪んでいたけれど、この時ほど希望というものを感じたことはない。

木の棒を投げ捨てたわたしは、必死に走った。

足元を確認することもなく、痛みを気にすることもなく、ただまっすぐに。


しかしせいで、そのなにかに躓き派手に転んだ。
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