地の棺(完)
黒い着物はだらしなくはだけ、目を引んむき、唇は紅が滲んでいる。

なによりも驚いたのは桔梗さんの頭。

長く艶やかだった髪は乱雑に刈り込まれ、坊主のようになっていた。

桔梗さんはわたしの事は目に入らない様子で、背中の雪君を奪い取ると強く抱きしめる。


「雪っ雪っ! ああっ! かわいそうに! なんてことっ!
こんな事…… あってはならないのにっ」


取り乱した桔梗さんは、雪君の顔を両手で掴み、嘆き悲しんだ。

わたしは屋敷に辿りついたことと、雪君の重さがなくなった事で体の力が抜け、そのまま床に座り込む。

するとそんなわたしを見た桔梗さんが雪君から手を離し、飛びかかってきた。


「お前のせいでっ!!」


咄嗟のことに驚き、動けなかったわたしは桔梗さんに体当たりされ、そのまま横に倒れる。

桔梗さんはわたしの体に跨ると、首に両手を回し、女性のものとは思えない程の力で絞めつけた。


「母さんっ」


快さんが桔梗さんの体を剥がそうとするが、桔梗さんはわたしの首から手を離そうとしない。

喉に桔梗さんの全体重がのしかかり息ができなくなる。

口から、鼻から、酸素を吸い込もうとしてもそれが肺に届かない。

必死にもがいたが、桔梗さんの体は微動だにしなかった。

そうこうしていると、息ができない苦しみに加え、頭に血液が集まる感覚がした。

頭の血管が張り裂けそう。

耳は聴覚を失くしたのか、快さんの叫び声や桔梗さんの声も聞こえてはいるけど、内容が入ってこない。

圧迫された喉に桔梗さんの爪が深く食い込み、初めて死を強く意識した。
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