地の棺(完)
「うわわっ」


ぐらっと体が右に傾いた。

足の裏に力を込め、ぐっと踏ん張る。

ゆっくり、ゆっくりと足を伸ばし、なんとか立ち上がることに成功した。

そのまま雪君の体を背中に担ぎ、倒れないよう慎重に屋敷を目指した。

志摩家はすぐ目の前。

わたしは必死だった。



辿りついたのは屋敷のちょうど裏側。

わたしの身長程の高さがある石壁の上から、枝垂れ桜が見えている。

玄関を目指して壁づたいに歩いていると、男性が争うような声が聞こえた。


この声は……


どこかで聞いた記憶がある。

快さん?

いや、違う気がする。もっと低い……シゲさんだろうか?


その時、思い出した。

わたしが島に来た日の夜。

雷鳴の音と供に聞こえた、あの時の声に似ていると。


一体誰の……



玄関まで移動し、ノブを回したが施錠されていた。

呼び鈴を鳴らすと、奥からバタバタと誰かが駆け寄ってくる足音が聞こえる。

少しの間をおいて、鍵が外れる音がした。


「蜜花ちゃんっ」


現れたのは快さん。

髪は乱れ、目を大きく見開き、げっそりとした頬はこけて見える。


「心配したんだよ。今まで一体どこに……」


そういう快さんの目が細く歪む。

だが、すぐにわたしの背中でぐったりしている雪君に気付き、険しい表情になった。


「雪?」


「快さん、わたしは大丈夫です。
それよりも雪君が……」


「雪ぃいぃぃーーーーっ!!」


天を劈く様な叫び声。

家を震わせる振動とともにけたたましい足音が響いて、家の奥から桔梗さんが姿を現した。




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