地の棺(完)
血の気が引く音が聞こえた気がした。

ふらふらと床に崩れるわたしの耳に、


「げっ! 床、血だらけだし!」


という初ちゃんの叫び声が聞こえる。


泥がこびりついていたから?

こんなに傷だらけなんて気が付かなかったし、夢中だったからか痛みも忘れていた。

壁に両手をつき、体を支える。

ジンジンと熱を帯びた感覚は、右足だけではなく左足にもしていた。

四つん這いの姿勢をとり、膝と手を使って這うように布団の上に移動すると、初ちゃんがベッドの上に置いてあった包帯とガーゼの入った袋を布団に投げた。

そして右手に白い容器のようなものを持ち、わたしの隣に座り込む。


「これ、消毒。めちゃくちゃ痛いからね。さっさと手当したら、僕の手も固定してくれる?」


そういって前に突き出した初ちゃんの左手は、さっきよりもどす黒く腫れあがっていた。


「ごめ、ごめんなさい。わたしのせいで……」


「勘弁してよ。蜜花のためじゃないし。自分の身内が犯罪者とか嫌なだけだから、勘違いしないでよね」


初ちゃんは不機嫌そうな顔で毒づく。

でも、それが本心からのものだとは思わない。

あの時の初ちゃんの姿は、わたしの眼に色濃く刻みついていたから。


「ありがとう」


初ちゃんが助けてくれなかったら、わたしは生きていなかっただろう。

自分の意志で生きることができなかったあの瞬間を、忘れることはできない。

初ちゃんは振り向かなかった。

わたしは手早く自分の両足の消毒をし、ガーゼと包帯を多めに巻きつけた。

クローゼットから靴下を取り出し、包帯の上から履く。

たぶん、これでマシになっただろう。
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