地の棺(完)
そっけない口調で顔を合わせない初ちゃんに言われ、自分の姿を見る。

山の中を手探りで歩いたせいか、泥はもちろん、体中に草や葉っぱにまみれていた。

クローゼットからバスタオルと下着、紺色のフード付きトレーナーワンピースと黒のレギンスを取り出し、そのままバスルームに駆け込んだ。



熱めのお湯を頭の上から浴びながら、土や草と一緒に涙を流す。


島に最初に来た時、迎えに来てくれた多恵さん。

カラカラと心地よい笑い声がとても好きだった。

手伝いという名の雑談も楽しくて、多恵さんがいたから孤独を感じることがなかったのに。


温かな笑顔が頭に何度も浮かび、そのたびに悔しくて激しい後悔に苛まれる。

体を全て洗い流し、鏡に映る自分を見て驚いた。

ここ数日で一気に年をとったような目の窪み。

首には桔梗さんの手形が赤く残り、押し付けられた爪跡からはうっすらと血が滲んでいる。

ゾッとして鏡から眼をそらした。

髪を軽く乾かして部屋に戻ると、初ちゃんはベッドの上で体育座りをしたまま、膝に顔を伏せていた。

わたしの気配に気づき、けだるそうに顔を上げる。


「遅い」


「あ、あの、ご、ごめん」


「こんなに一人にしてどうすんの? 僕が襲われたら助けてくれるわけ?」


一気に捲し立てられ、口を挟む余地もない。

初ちゃんは大きなため息をつくと、クローゼットの前の布団にむかって顎をしゃくった。


「そこ、寝たら?」


言われるまま移動しようと歩こうとして、足の裏に激痛が走る。


「いっ!!」


痛い。すっごく痛い。

壁に手をつき、痛みを感じた右足の裏を見ると、かかとから真ん中辺りまでの皮がべろりと剥げ、足先は無数の裂傷で血に塗れていた。
< 159 / 198 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop