地の棺(完)
雪君かな、なんて思っていたのだが、扉を開くと一人の少女が立っていた。

年齢は雪君と同じぐらい?

肩までの髪はサラサラのストレートで、白くきめ細やかな肌は、目で見てもわかるくらい透明感がある。

高すぎず低すぎない鼻。
薄紅色の唇。
緩やかなカーブを描いた睫は、黒めがちな瞳に色気のある影をつくっている。

薄紫色の浴衣に白い衣を羽織った少女は、部屋の入り口に立ち、わたしに向かって一礼した。

慌てて頭を下げ返す。


「初めまして。私は志摩初(しまはつ)と申します。

夕食の用意が整いましたので、お迎えに上がりました」


初と名乗った少女は、はにかんだ笑みを浮かべた。

その可憐さに胸がきゅんとする。


「あ、ありがとうございます」


雪君の妹さんかな?

なんて考えながら、少女を見る。


「兄がお部屋のカギをお渡ししていなかったので、どうぞ」


袂から赤いリボンがついた鍵を渡された。

リボンには4と刺繍してある。

鍵の形は丸く細長いもので、一般家庭の玄関に使うものとは全く違う。

小学生の時、鶏小屋で使用していたような、良く言えばレトロな形のものだった。

施錠し、少女の後に続く。


「食事はこの廊下の一番奥のお部屋でしていただきます。
朝は八時に。昼は十二時に。夜は七時に。
それ以外の時間をご希望でしたら、一階の使用人の部屋に申し出てください」


少女は笑顔のまま、丁寧に説明してくれる。

うっかり朝寝坊でもしたら、多恵さん達に迷惑をかけることになりそうだ。


「時間を間違えないようにしなくちゃ……」


自分に言い聞かせるために言った言葉に、少女が首を傾げた。
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