地の棺(完)
駆け寄った初ちゃんは、唇の端が切れ血が滲んでいた。

右頬が朱を差すように赤くなりその痛みは見ただけで伝わってくる。

またシゲさんに向かって行く気がしたので、初ちゃんの前に立ち塞がり、動きを封じた。


「どけよ、蜜花っ」


「だめ、どけない」


「どけってばっ」


わたしと初ちゃんのやり取りと横目で見ていたシゲさんは、鼻で笑う。


「やりすぎなんじゃないか?」


低い声で諫める快さんを、シゲさんはきっと睨みつけた。


「お前達が椿や柚子にしてたことよりマシだろ? ああ?」


椿さんや姉に快さん達が?


意味深な言葉に答えを求めて快さんを見ると、快さんはさっと顔をそらした。

神原さんも、初ちゃんでさえも皆余所余所しい空気になる。


「な、なんなんですか? 二人になにが……」


シゲさんはニヤニヤと笑い、他の三人は無言のまま。

わたしはシゲさんの前に立ち、彼の目をまっすぐに見つめた。

シゲさんの瞳の中には荒れ狂う怒りがある。

その怒りがわたしに向けられていたとしても、きっとこの人なら真実を教えてくれると思った。


「教えて……ください。シゲさん」


シゲさんはわたしの言葉を待っていたかのようにベッドに腰掛けると、布団に座り込んだ三人を見渡す。


「先に教えてやる。こいつらはお前を歓迎なんかしてない。
寧ろ、自分たちが柚子にやった事の仕返しに来たと思ってたんだぜ。

柚子はいい奴だった。だから妹を歓迎してる、そんな態度をとってたけどな」


仕返し?


「仕返しって……仕返しってなんですか?
姉はここでの暮らしが楽しいと、恋人ができたと、そう言ってました。

なのになんで……」


「お前、柚子が妊娠してたことは聞いてたのかよ」

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