地の棺(完)
妊娠。

実の姉のお腹に命が芽生えていたと聞かされても、全く実感がわかない。

しかもその子はこの世に生まれてくることも、わたし達家族にその存在を知られることもないまま亡くなってしまった。

わたしは目を閉じ、深呼吸をする。

間違っても泣いたりしないために。


「椿さんから聞きました」


快さんが勢いよく顔を上げ、わたしの顔を凝視した。

とても驚いた表情で。

シゲさんは馬鹿にしたように鼻で笑う。


「だろうな。誰の子供かわかるか?」


「……姉には恋人がいたと聞いてます。だからその人の子供じゃないかと、そう、思うんですが……」


「お前、中身はガキだな。そんなわけないだろ。なんのために柚子がお前達家族にも内緒にしてたと思うんだよ」


なんのため?

わからない。

反対されると思ったからだろうか?

答えられないわたしにシゲさんは舌打ちする。


「産む気がなかったからだよ。
真紀に聞いた話だけどな。柚子は墜ろすつもりだったんだよ。
だから福岡に帰ったんだ」


中絶。姉さんが?


「そんな……嘘……だって姉さんは恋人と結婚するって……」


シゲさんの目が怪しく光る。

心の底から馬鹿にしたようにわたしの顔を上から下まで見下ろした。


「ボケ。その恋人の子供じゃなかったからだろ」


恋人の子供じゃ……

だめだ。

シゲさんの話が、自分の姉の事のようには聞こえない。

どこか他人事で……でも、きっとそれは紛れもなく事実だと、そう思う。


「一体誰の……」
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