地の棺(完)
初ちゃんはキョトンとした表情をする。


「なんで蜜花さんが?」


「なんでって……わたしが勝手にやりたくて」


「使用人にやらせておけばいいでしょうに」


初ちゃんの言葉に衝撃を受けた。

そのまま何も言えなくなる。

初ちゃんは無垢な瞳で、不思議そうにわたしを見つめていた。

お手伝いさんがいる生活に慣れるている初ちゃんからすれば、わたしの行動の方が謎なのだろう。

でもなんとなく嫌な気分になった。

なんだろう。この感情。

わたしは曖昧に笑って初ちゃんの言葉に返事はしなかった。

初ちゃんはそれ以上追求せず再び笑顔になると、わたしの右手を両手で掴む。

その手はひんやりと冷たく身震いしそうだった。

初ちゃんは右手と右手を重ねると、手を引き歩き始める。

部屋から顔だけ出し廊下を確認した後、部屋から出た。


「初ちゃん? どこに行くの?」


初ちゃんは静かに足音に気をつけながら歩く。

ゆったりとした動作で振り向き、柔らかな笑みを浮かべた。


「蜜花さんに見せたいものがあるんです」


「わたしに?」


「はい。柚子さんの、忘れ物なんですが……」


姉さんの忘れ物?

胸がドキッとした。

初ちゃんはわたしの顔が期待に染まるのを見てか、ふふっと声をたてて笑う。


「皆には内緒にしたいんです。だから、静かについてきてください」


そういうと初ちゃんは速足で、でも慎重に周囲を窺いながら一階に降りた。
そのまま志摩家の人々用の扉の前に移動する。


「初ちゃん、ここからさきって……」


「大丈夫です」


「いや、でも」
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